世界ランク5位の錦織圭(26=日清食品)が出場する楽天ジャパン・オープン(東京・有明)が3日に開幕。亜大教授でテニス部総監督の堀内昌一氏(56)が、テニスを深く知るための最新の考え方を指南する。最終回はあの絶妙ドロップショットとロブの背景だ。【構成=井上真】

1回戦のヤング戦でショットを放つ錦織
1回戦のヤング戦でショットを放つ錦織

 決して惑わされてはいけないのが、テニスコートの形だ。テレビで楽しむ人はほとんどがコートが横に広がっている錯覚に陥る。それは画面を通して見えるコートが正方形、もしくは横長の長方形に見えてしまうからだろう。しかし、実体は縦と横の比率は26対9。極めて縦に細長い長方形だ。これが、非常に大切な要素となる。

 錦織が優れているのは、このコートを俯瞰(ふかん)しながら攻撃を組み立てている点にある。横幅だけじゃなく、前後、つまり縦を使い相手を翻弄(ほんろう)する。錦織は相手を観察しながら不得意なエリアを見つけ、数種類の打点を操りながら相手を動かす。

 錦織は返球を深くするか、浅くするかで、相手をベースラインを基準に前後に動かす。そこに高く弾む返球を送り、相手の打点を狂わせつつ、細長いコートを地の利として生かそうと策略を巡らせる。その代表的な2パターンにドロップショットとロブがある。

 より深く返球すると、相手は必然的にベースラインより後ろへ下がらざるを得なくなる。その時、ネット際にスペースが生まれる。ここへ、深いショットを打つと見せかけたスイング軌道で、インパクトの瞬間に力を抜くドロップショットを放つ。(イラスト1)

 同じく、ネットプレーを好むビッグサーバーには、あえてネットプレーしやすい返球で相手を前へおびき出す。そして後方にできたスペースへロブを上げる。(イラスト2)

イラスト1
イラスト1
イラスト2
イラスト2

 ドロップショットもロブもただの思いつきや偶然ではない。錦織が相手の動きをある程度コントロールするから生まれる必然のショットと言える。その背景にあるのは「自分がどう打つか」ではなく「相手にどう打たせるか」というコンセプトがある。

 相手に浅いショットを打たせ、深くポジションを取らせておいて、ネット際にスペースを生みだす。相手にネットプレーをしたくなる状況に誘い込みながら、ベースライン付近に広大なオープンスペースが出来上がっている。まさに変幻自在だ。すべては超細長いコートゆえの、前後へのしたたかな揺さぶり、ということができる。(堀内昌一=亜大教授・テニス部総監督)(おわり)


 ◆堀内昌一(ほりうち・しょういち)1960年(昭35)2月1日、東京都出身。日体大では83年ユニバーシアード出場。学生時代から海外での試合経験を積み、世界のトップの練習方法やコーチングを学ぶ。85、86年ジャパン・オープン出場。指導者に転向後は全日本大学王座決定試合で男子2回、女子3回優勝へ導く。日本テニス協会公認マスターコーチ。指導者養成にも取り組む。