現役引退したはずのメダリストが大会に出場した。

 リオデジャネイロ・パラリンピック柔道男子60キロ級(視覚障害)銀メダルで現役引退を表明していた、広瀬誠(40=愛知県名古屋盲学校教)が韓国代表のパク・ジョンソク(22)に敗れ、3位になった。

 「ただのオヤジになります」。リオ大会後の10月上旬にこう言って、現役引退した広瀬が、なぜか畳の上にいた。「久々に柔道仲間に会いに来ました。現役復帰は本当にないです。詐欺で捕まっちゃいます」と冗談交じりに説明した。

 大会関係者によると、広瀬の場合、今大会は参加費3000円支払えば参加できるという。階級は1つ上げた66キロ級で出場した。リオ大会後は毎日していた稽古も週4日に減り、現在の体重は63キロという。しかし、現役時代の切れ味ある攻撃的な柔道スタイルは健在だった。開始40秒で有効を奪ったが、残り1分30秒で内股の技あり1本で負けた。「パク相手でも試合は勝つつもりでいた。結果的に相手の方が上だった」。

 高1で柔道を始め、2年の時に視覚神経が萎縮するレーベル病を発症し、視力が急激に低下した。不安を拭ってくれたのが、大好きな柔道だった。銀メダルを獲得した04年アテネ大会から4大会連続でパラリンピックに出場。階級を66キロ級に上げたロンドン大会でメダルを逃し、“引退”を1度決めたが、「娘たちに大舞台で戦う強い父を見せたい」との思いで現役を続行した。リオ大会には妻里美さん(35)と娘3人も応援に駆け付けた。これまで代表合宿や減量、トレーニングなどで家族との時間が少なく、迷惑をかけてきた。引退後は「これからは子どもと遊ぶ時間を作りたい」と言っていたが、20年東京大会関連のシンポジウムやイベントなどに引っ張りだこで「思ったより増えていない。若干、嫁が不機嫌になっている」と苦笑いした。

 広瀬には次の夢がある。これまで世話になった柔道界への恩返しだ。「東京大会だけでなく、その先の大会も見据えて柔道界を盛り上げたい。視覚障害者柔道を通じて、障害者への理解を深めたい。若手選手の発掘やサポート体制の強化など積極的に行いたい」と前を向いた。

 男子66キロ級では、リオ大会銅メダルの藤本聡(41)も出場したが、準優勝に終わり、メダリスト2人が敗れるという波乱の結果になった。