今季は身も心も「大人」になった。以前は競技中、怖いぐらいに集中していた。コーチ陣が声をかけても聞こえないぐらいで、周囲に「気づけなかったらすいません」とあらかじめ伝えるほどだった。だが、その集中力はもろ刃の剣だった。4位に終わった14年ソチ五輪ではジャンプに微妙なズレが生じたが、周囲の声が耳に入らなかった。「余裕がなかった」。五輪後、変化を求めた。競技中でも他の選手の動きを観察し「参考になることがいっぱいある」と気づく。自身を客観視できるようになった。

 20歳になって本格的に始めた化粧も「変化」の1つだ。30分早く起きて念入りに行い、気持ちをリフレッシュする。オンとオフを使い分けられるようになって対応力が上がった。山田コーチが「最近はどんな時でも余裕がある」と話すように、大会中あまり見られなかった笑顔が、今季は多く見られるようになった。

 22日開幕の世界選手権(フィンランド・ラハティ)では、まだ個人戦で金メダルがない。来年の五輪に向けても、どうしても手にしたいタイトルだ。「いい方向に行きつつあるので、やるべきことに集中して準備を進めていきたい」。新たな勲章を手にした女王が世界の頂を極めにいく。

 ◆高梨沙羅(たかなし・さら)1996年(平8)10月8日生まれ、北海道上川町出身。15歳だった12年3月にW杯初勝利を挙げ、12~13年シーズンに史上最年少でW杯個人総合制覇。今季も2季連続となる4度目の総合優勝。ソチ五輪は4位。日体大3年。152センチ、44キロ。