日本にはこれまでスピード専用のウォール(壁)が少なかった。日本に公式大会がなく、国際スポーツクライミング連盟(IFSC)が公認とする高さ17・5メートル(登るコースは15メートル)のウォールを作る必要性がほとんどなかったからだ。競技人口も、ボルダリングに比べると少ない。20年東京五輪に向けて準備が遅れている中、昨年末には具体的な取り組みが始まっていた。

 昨年12月、フランス・リヨンの郊外に日本、フランス、イタリア、オーストリアのスポーツクライミングの選手と指導者が集まった。五輪でボルダリング、リード、スピードの3種目をどう実施するか、テストしていた。日本からは楢崎智亜、藤井快、緒方良行、野口啓代が参加。どの種目から始めるのか、日程はどうするのか。選手の疲労度などもチェックされた。

 日本勢はスピードの経験が不足している。緒方は「僕のスピードのタイムは8秒7でした。これから6秒台から7秒を出せるようにしたい」と、世界との差を実感した。男子の世界記録は5秒60。かなりの差に思えるが「スピードが遅すぎて、ボルダリングやリードの成績に悪影響しないようにという感じです」と言い、スピードを3種目のうちの1つと受けとめた。

 3月には、五輪の実施方式が発表された。スピード、ボルダリング、リードの順に行い、各種目の順位を掛け合わせたポイントで争うことが決まった。

 ボルダリング日本代表の安井ヘッドコーチは「(スピードで)7秒前半から、6秒後半を出せるように考えています」と言う。日本人選手はスピードに特化して強化するのでなく、ボルダリング、リードの能力を高めながら、スピードにも慣れていくという方向性が固まりつつある。【井上真】