世界に無縁だった男がようやくつかんだ。100キロ超級の王子谷(おうじたに)剛志(24=旭化成)が、05年の鈴木桂治以来12年ぶりとなる2連覇を達成した。決勝で100キロ級のウルフ・アロン(21)を延長戦の末、指導を奪い優勢勝ち。昨夏のリオデジャネイロ五輪に出場できなかった悔しさを胸に世界選手権(8月開幕、ブダペスト)の切符を初めて獲得した。100キロ超級には王子谷とリオ五輪同銀メダルの原沢久喜が選ばれるなど男子代表9人が出そろった。

 「不器用な柔道家」が悲願の世界切符を手にした。相手は東海大の後輩で世界選手権代表が決まっているウルフ。試合開始3分過ぎ、両者が顔から出血し、王子谷は唇を切った。血が止まらず、主審に「あと2回血が出たらドクターストップ」と宣告されてギアチェンジ。鬼気迫る顔で“決め”に行き、7分20秒、指導を奪って優勢勝ちした。「リオ五輪の落選があって今がある。見返したいという気持ちだけでやってきた。あとは(絶対王者の)リネールを倒すだけ」と前を向いた。

 15年12月のグランドスラム東京で膝を負傷。昨年の全日本選手権では日本一に立ったが、原沢に五輪代表の座を奪われた。同じ年の原沢が躍進し、存在感は薄れる一方。東海大の上水研一郎監督に「現実から逃げるな。堂々と柔道をしろ」と助言され、頭を丸めた。

 乱取りも階級関係なく多くの選手とし、苦手だったウエートトレーニングも組み手強化で90キロのダンベル引きなどをした。天真らんまんな性格で不器用。「愛されキャラ」でじゃがいもの皮をむけば指を切り、ラップもうまく切れない。7歳で始めた柔道は前回り受け身が出来ず、自宅の布団で黙々と練習した。太くて短い腕を生かすための組み手もひたすら研究した。

 この1カ月で体重は5キロ減の145キロにしたにもかかわらず、大会前日にはモンブランとすき焼きを食べて気分転換した。目指すのは20年東京五輪。「年齢的にも最後だと思うし、これからは全試合勝つつもりで臨みたい」。不器用な柔道家が覚醒した。【峯岸佑樹】

 ◆王子谷剛志(おうじたに・たけし)1992年(平4)6月9日、大阪府生まれ。7歳で柔道を始める。東海大相模高3年時は高校総体、日本ジュニア、世界ジュニアを制覇。昨年11月の講道館杯から国内外の大会5連勝中。得意技は大外刈り。右組み。家族構成は両親と姉、弟。186センチ、145キロ。