小平にとって、平昌は3度目の五輪となる。大舞台で結果を出すためのヒントを探すかのように、清水氏に質問をぶつけた。

 小平 五輪、しかも地元の長野。不安とか、どうしようという気持ちになったりはしなかったですか? 自分を保つために工夫したことはありましたか?

 清水 自分は五輪2年前に内定をもらったこともあって、何度も悪いイメージが襲ってきた。夢で転倒したり、うなされた時期もあった。ただ、1年前からは、すべてがトレーニングだと思うようにした。食事、睡眠も練習。少しでも負のイメージが頭をよぎったら、フッと呼吸で吐き出すようにしていた。

 小平にとって忘れられないシーンがある。長野五輪の500メートル、2本目。清水氏の滑走を前に、他の選手が転倒し、競技が中断された。予期せぬ事態に、清水氏はリンクの内側で大の字に寝そべり、天井を見上げた。

 清水 あの日は朝から体が重くて、こんなに疲れていて大丈夫かなって。すごく緊張もしていたし、恐怖と良いイメージの繰り返し。そんな時に転倒が起きた。靴を脱いで、両腕両足を脱力して、内臓の力も抜いていくイメージ。そうしたら、ふっと力が抜けて、自分を俯瞰(ふかん)できた。あそこで変わった。

 清水氏をじっと見つめ、一言一句を聞き逃さないように耳を傾ける小平。清水氏は、熱っぽく続けた。

 清水 自分が1万人の中心にいて、みんなが見ているけど、世界規模で見れば戦争もあるし、小さな出来事。何でびびっているのかなって。アーティストではないが、自分がずっと目指してきた作品を見てもらえばいいんだって。そう思えたら、すごく楽になった。

 わずか三十数秒で勝負が決する500メートルの世界。精神面をいかに制御するかは、タイムに直結する。小平は14年ソチ五輪後からの約2年間のオランダ留学で、大きなきっかけをつかんだ。

 小平 オランダではレース前に「相手を殺していけ」という言葉を使う。最初はそんなの無理って思ったけど、聞いているうちに何となく自分にもできるかもって。言葉自体は好きではないが、それぐらい相手と戦うってことなんだなと。