チャレンジスクールの稔ヶ丘高の生徒は、日体大の集団行動に、どのようにして出会ったのか。そこには、日体大の集団行動に所属する西野剛生(21)の存在が大きくかかわっていた。(取材、文=井上真)

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 毎年、日体大では春に集団行動に参加する学生を募集する。

 条件は2つ、集団行動を第1優先にすること、日体大の学生であること。日体大の健志台(青葉台)で週3回(約2時間)の練習に参加し、東北、北海道などで年間5回の合宿を行う。

 西野 自分勝手では交差する動きは完成しません。日体大の集団行動は1年で心をひとつにするんです。

 通算歩行距離およそ1000キロ。それを、ただ黙々と歩く。隣や前後の人との距離を意識に置き、ひたすら無心になって歩く、歩く。

■1分間167歩リズム

 日体大の集団歩行では、歩幅は95センチと決まっている。1分間に167歩。この感覚を、メトロノームを使って体に刻み込んで行く。佐々木はこの単調な歩行の難しさの本質を説明する。

 佐々木 シンプルな動作ほど、ミスが浮き彫りになります。むしろ、交差などの派手な動きはごまかしが効くんです。

 集団行動は他の集団競技と決定的に違う。

 西野 野球やサッカーならエースやストライカーが活躍すれば、他の選手のエラーやミスをカバーして試合に勝つことができます。でも、集団行動は全員がノーミスで完ぺきでないとチームも勝てないんです。清原監督はよく言います。『全員がエースだ』って。全員が勝たないと、集団の勝利はない。そこが難しいところであり、人を思いやりながら全体が勝つために全神経を集中させないといけないんです。

 この精神こそが、清原監督が毎年学生に1年を通して伝える集団行動の真髄だ。

 それを実体験として学んだ日体大の学生は、礼儀正しく運動ができる若者というくくりから1歩外へ踏み出す。「人の心情を思いやれる」という側面が学生の人間性を引き揚げているようだ。

 主力選手に頼らない、頼れない。自分が自分に勝たないと、集団の美しい動きは完成しない。非常に難しいミッションだけに、反復練習と、少しずつ芽生えていく一体感こそが、集団行動の醍醐味(だいごみ)と言える。

■2017年春の出会い

 その集団行動と、集団行動が苦手なチャレンジスクールの2年生は、2017年の春、ひとつのつながりから出会う。

 先述した柳本先生が東京・調布南高に赴任していた時、その教え子が西野だった。久しぶりに顔を合わせた2人は、自然と西野が所属していた集団行動の話題に夢中になった。

 「稔ヶ丘の生徒にも感動する経験をさせてあげたいな」。

 柳本先生の言葉に、西野は即座に反応した。清原監督の許可を得て、3月21日に稔ヶ丘高に日体大の集団行動のメンバー20人が集まった。生徒の前で集団行動を実演した。2部の2年生80人は静かに見ていたという。

 まさか、自分たちがこれを実践するとは思っていなかった。(つづく)