日本スポーツ界に、前代未聞の不祥事が起きた。日本カヌー連盟は9日、昨年9月のスプリント日本選手権(石川県小松市)に出場した鈴木康大(32=福島県協会)が、大会中に小松正治(25=愛媛県協会)の飲み物に禁止薬物を混入させ、小松がドーピング検査で陽性となったと発表した。鈴木は過去に小松らのパドルなどを破壊、窃盗したことも認めている。ともに昨夏の世界選手権代表で、東京五輪を目指すトップ選手が、若手のライバルを陥れた事件。開催国としてもイメージダウンとなった。

 前代未聞の出来事に「クリーン」をうたってきた日本スポーツ界にも激震が走った。スポーツ庁の鈴木大地長官は9日、報道陣の取材に応じ「事実ならば大変遺憾だ。人を陥れるようなたちの悪いケース。日本のスポーツ史上あまり聞いたことがない性質のもので、非常にがっかりしている」と沈痛な表情で話した。

 日本はスポーツへの倫理観の高さを誇ってきた。20年東京五輪・パラリンピック招致の際にも、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長がプレゼンテーションの席で「日本には過去五輪でドーピング違反者が1人もいない」とクリーンさを強調。世界的に違反者続出が問題になっていただけに、日本の反ドーピングへの取り組みは招致成功への追い風となった。

 20年東京大会組織委員会は、ドーピング違反ゼロの大会運営を目指している。昨年10月には「すべてのアスリートが正々堂々と闘える大会にする」ためにJADAと覚書を締結した。スポーツ議員連盟は昨年、禁止薬物使用を違法行為と位置づける「ドーピング対策法案」を了承し、18年度中の施行を目指している。

 20年大会を控える日本スポーツ界全体が取り組む反ドーピング。JOCの竹田会長は「JOCとしても引き続き、クリーンなアスリートが活躍できる環境整備に取り組んでいきたい」とコメントした。「ずるしてまで勝とうと思わないのが日本人」と鈴木長官は話しているが、1つの「ずる」で日本スポーツ界の信用が失墜したのも確かだ。