14歳の怪物が前人未到の記録を打ち立てた。男子シングルスで、張本智和(エリートアカデミー)が男女通じて史上最年少となる14歳208日で初優勝を飾った。決勝では10度目の優勝を狙う水谷隼(28)に4-2で完勝。10年以上も日本を引っ張ったエースから昨年の世界選手権に続き、公式戦2連勝で白旗を上げさせた。2年後の東京五輪会場で、ジュニアに続く最年少で2冠達成。五輪本番の目標、団体、シングルス金メダルに向けて大きな1歩を刻んだ。

 うれしすぎて声も出なかった。憧れの水谷を破っての日本一。その瞬間、張本は普通の14歳に戻る。一目散に走ると、コーチ席の父宇さんと抱き合った。「良いときも悪いときも、表情を変えず、優しく接してくれた。一番感謝したい」。得点時に叫ぶ、有名な「チョレイ」は封印。インタビューでは「今まで生きてきた中で最高の瞬間」と、まだ短い人生を振り返った。

 完勝だった。得意の高速バックハンドで厳しいコースを突く。第1ゲームは1度もリードを許さず先制。第2、3ゲームは取り合ったが、第4ゲームは11-2と圧倒する。第5ゲームは奪い返されたが、父宇さんから「今までのプレーをすれば勝てる」と背中を押され、強気を保つ。第6ゲームは3-3から6連続得点、最後はこの1年間で強化したフォアで相手のレシーブを封じた。

 昨年度大会は優勝候補のジュニア、シニアともに早期敗退し、人目もはばからず号泣した。「本当に死にたいと思うほどつらく、悔しかった」。1カ月前に史上最年少で世界ジュニアを制していたが、その鼻をへし折られた。元卓球選手の両親からも「頭を冷やせ」と叱責(しっせき)を受けた。当時13歳の張本は卓球に向かう態度を改めることを決意した。

 2年前から都内のナショナルトレセンで寄宿生活を送る。練習開始は午前9時30分だが、8時45分には卓球場に入ると、床をモップで掃除。卓球台を雑巾で拭く。そして他選手が来る前に、自主的にサーブ練習を繰り返した。午後の練習が終わっても、食堂終了の午後9時ギリギリまでラケットを放さない。「あと1分が、1時間になったこともある」と張本。母凌さんも「練習量、練習態度が別人になった」と認めた。

 パワーが増し、課題のフットワーク、フォアハンドが改善。結果は出る。昨年6月の世界選手権では水谷を撃破して最年少ベスト8。同8月のワールドツアーも最年少優勝。「今まで好きではなかったが、練習以外で強くなる手段がない。やればやるほど成果が出る」。幼少期から育んだ才能に、誰にも負けない努力が加わったからこその最年少優勝だった。

 2年後、同じ会場で東京五輪が開催される。「もっと海外の強い人に勝って、金メダルを2つ(団体、シングルス)取れるように頑張る」。織田信長、坂本龍馬ら歴史上の人物が好きな14歳。偉人と同様に、歴史を変えてみせた。【田口潤】