テニスの“聖地”で、記録ずくめのドラマが生まれた。世界8位のケビン・アンダーソン(32=南アフリカ)と同10位のイスナー(米国)の準決勝は6時間36分の死闘となり、アンダーソンが7-6、6-7、6-7、6-4、26-24で勝ち、南アフリカ選手として97年ぶりの決勝に進出した。6時間36分は4大大会史上2番目に長い試合で、センターコート最長試合となった。

 午後1時10分に始まった試合は、すでに午後7時半を過ぎていた。果てしない死闘は、ついに第50ゲームで決着がつく。最初に訪れたマッチポイントで、イスナーのフォアが力なくラインを割った。午後7時46分。勝ったアンダーソンは「引き分けでもいい。でも、誰かが勝たなくてはならない」としみじみ語った。

 ネット脇で、2人はしっかりと抱き合った。アンダーソンはイリノイ大、イスナーはジョージア大の出身で、1歳違いの2人は、ともに米国大学テニス界で競った仲だ。アンダーソンが「こういう形で負けるのはつらいと思う」と相手を気遣えば、イスナーも「彼はプロ中のプロ」と称賛した。

 予兆はあった。両者ともにビッグサーバー。バウンドして球足が速い芝では、サービスキープが続く。アンダーソンは準々決勝で、フェデラーを倒した試合も4時間14分、合計67ゲームを費やした。イスナーは10年の1回戦で、11時間5分のテニス史上最長試合を記録している。

 イスナーは、8年前は勝者で今回は敗者。ともに歴史に名を刻んだ。しかし、右足にはマメ、左かかとを痛めながらの敗戦で「何の慰めにもならない。目の前に4大大会の決勝があったんだ」。逆にアンダーソンは「夢がかなった」と決勝進出を喜んだ。

 ただ、両者は最終セットにタイブレークがない方式を批判した。アンダーソンが「テニスの試合を超えている。普通じゃない」と言えば、イスナーも「せめて12オールでタイブレークとか改善してほしい」と訴えていた。【吉松忠弘】

 ◆4大大会の最終セット ウィンブルドンは71年に最終セット以外、タイブレーク方式を導入。71年以前はすべてのセットで、2ゲーム引き離すまで延々と行われた。4大大会で最終セットにタイブレーク方式を採用しているのは全米だけ。米国ではテレビ局の力が強く、時間が読めない競技は放送に差し障りがあるため。国別対抗戦のデビス杯、フェド杯も以前は最終セットだけタイブレークがなかったが、現在はすべてのセットで採用している。