なぜパワーハラスメント認定はされなかったのか。日本体操協会の塚原光男副会長(70)と塚原千恵子女子強化本部長(71)による、リオデジャネイロ・オリンピック女子代表の宮川紗江選手(19=高須クリニック)へのパワハラが認められないと結論づけた第三者委員会側が11日、取材に応じた。キーポイントは「パワハラの定義」。塚原夫妻には不適切な点はあったが、違法性や懲罰などの対象になる行為はなく、宮川選手の受け取り方は定義外となった経緯が見えてきた。

宮川選手自身が「とにかく信じられない」と落胆したパワハラ認定なし。その決定過程が明かされた。10日に行われた日本協会の会見には第三者委員会のメンバーはおらず、報道陣が直接説明を問う場がなかった。日大のアメフト問題、日本ボクシング連盟の騒動では、第三者委が調査結果を報告する機会が設けられていた。一夜明け、調査の詳細を聞くため、第三者委の広報向け窓口を務める菅原清暁弁護士に聞いた。

報告会見がなかったことは「調査結果を協会に伝えるのが使命だと思っていました」とし、日本協会からの要請によるものではないとした。調査対象にした25人の素性など「中身に関してはこたえられない」とし、他件のパワハラの告発もなかったが、「無実」の判断に至った鍵は、その定義であることが分かった。

第三者委の報告書の要約版では「単に一般的に不適切だけでなく、違法性を帯びたり、懲戒や懲罰の対象となり得るようなもの」と定められている。この理由について同弁護士は、日本スポーツ振興センター(JSC)で採用されているパワハラの定義などを参照したとし「極めて抽象的な概念ですので、この事案に対してかみ砕いた定義にしました」と説明した。一般常識的に不適切なだけでなく、最終的には行為の悪性度の高さに重きを置いた。

結果として、受け手の宮川選手が不快感を覚えたとしても、それが今回の調査でパワハラとは認められない結論となり、法に問える行為はなかったと認定した。速見コーチからの指導継続を希望する宮川選手に対して塚原強化本部長が「宗教みたい」と発言したことなどを不適切と断じたが、「決定的な問題」とまでは認めなかった。

被害者側がパワハラと感じれば、それが該当するか。スポーツ界には明確なガイドラインは存在しない。JSCも1つの参考例で、今年起きた各競技団体の不祥事も各第三者委がそれぞれで定義をしているのが現状。被害者当人が驚くような決定がなされてしまう難しさがある。【阿部健吾】

<第三者委が前提とするパワハラの定義>

同じ組織で競技をする者に対し、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、競技活動の環境を悪化させる行為。それは、単に一般的に不適切だけでなく、違法性を帯びたり、懲戒や懲罰の対象となり得るようなもの、通常、人が許容し得る範囲を著しく超えるものを言う。その概念を前提として認定する。(日本体操協会の発表による)