関学大のQB奥野耕世(2年)が聖地で正真正銘のエースになった。関学大は37-20で早大を下し、最多優勝を更新する2年ぶり29度目の優勝。5月の定期戦で日大から悪質タックルを受けた奥野が計198ヤードを獲得するなど大活躍し、ミルズ杯(年間最優秀選手)と甲子園ボウル最優秀選手にも選ばれた。苦難を乗り越えた男は、来年1月3日の日本選手権「ライスボウル」(東京ドーム)で社会人王者に胸を借りる。

悪質タックル問題に泣いた奥野が、今度こそ会心の笑顔を見せた。「波瀾(はらん)万丈。人生でこんな経験することない。勉強になった1年でした」。立命大に逆転勝ちした2日の西日本代表校決定戦では泣きじゃくった男が、学生日本一に白い歯を見せた。

まさに変幻自在の司令塔だった。第1クオーター(Q)、170センチ、76キロの奥野がボールを持つと早大守備陣の激しい重圧を受けた。「パスが止められていたので走りでゲインした」。QBサックを仕掛ける相手をかわし、さらに自分の体を回転させてのスピン技で突破を成功させた。

ランで49ヤード、成功率80%のパスで149ヤードの計198ヤードを獲得。秋の関西学生リーグに続く、文句なしの最優秀選手に輝いた。普段は辛口の鳥内秀晃監督(60)も「奥野がスクランブルでうまく走ってくれた」と評価した。

すべての始まりは5月の日大戦で受けた悪質タックルだった。全治3週間のけがを負い、何者かによる危害予告も受けた。反則問題で父康俊さんや鳥内監督の会見がテレビで生中継もされた。周囲を巻き込んだ騒動に「こんな悲しい思いをさせるならアメフトをやらなければよかった」と悩んだ。

心身とも追い込まれた時に支えてくれたのは仲間だった。「自分1人では立ち直れていなかった」と感謝する奥野は「ライスボウルに勝って日本一になるのが目標でやってきた。挑戦者として向かっていく」。苦難を乗り越えた若き司令塔は、今度も正面から社会人王者にぶつかる。【鶴屋健太】

◆奥野耕世(おくの・こうせい)1998年(平10)6月20日、大阪・池田市生まれ。小1から「池田ワイルドボアーズ」で競技を始めてQB一筋。関西学院高から関学大に進み、2年から主力。170センチ、76キロ。

◆悪質タックル問題 日大DL宮川が5月6日の定期戦で、パスを投げた後で無防備だった関学大QB奥野に背後から激しくタックルして腰や脚などに約3週間のけがをさせた。奥野の父親は大阪府警に被害届を提出し、関学大は定期戦の当面中止を発表。この問題はメディアで大々的に扱われ、社会問題に発展した。日大の第三者委員会はその後、当時の内田監督とコーチの指示を認定。日大は2人を懲戒解雇処分とした。「悪質タックル」は今年のユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされた。