13年連続の決勝進出となった水谷隼(29=木下グループ)がV10を達成した。

初決勝だった大島祐哉(24=木下グループ)に4-2で勝利。2年ぶりの優勝を果たし、最多優勝記録を更新した。試合後、全日本選手権出場は今大会を最後にすると明言した。

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10度目の日本一は水谷を高揚させた。スタンドに「V10」のプラカードが躍ると一目散に、追っかけ主婦が多くいるアリーナ席に飛び込んだ。苦しく、毎晩吐きそうになりながら戦い、手にした前人未到の栄冠。「ファンの方々がいるから頑張れた」と、身を任せてもみくちゃにされた。

昨年敗れた張本を倒そうと準備してきたが、決勝の相手は大島。張本を倒し、勢いに乗るTリーグ東京の後輩に、第1ゲームを11-13と先取されたが焦りはなかった。第2ゲーム以降、ラリーで左右に振られても追いつく。持ち前のラケットコントロールで確実に返球し、じれた大島のミスを誘う。フォアもさえ、第2ゲームを11-6で奪い返した後は、試合を支配した。

優勝インタビューでは約5000人の観客を驚かせた。「今年で最後の全日本選手権にしたい」と宣言。「V10で終わりにしようと思っていた。昨年勝っていたら今年は出なかったし、今年勝てなければ来年も出ていた。(負けて)ボロボロになってファンを悲しませるより、勝って辞めたかった」。

卓球選手にとって天皇杯・皇后杯と名の付く全日本は特別な存在で、誰もが必死に挑んでくる。長年追われる立場だった水谷にとって「毎日死にたいと思うぐらい苦しい」ものだった。最近は試合前夜、次戦選手のことを考えるのをやめ、少しでも気を静めた。

日本代表も「東京五輪が終わったら辞めます」とあらためて明言。16年リオ五輪でメダルを2つ獲得し「周りが五輪や世界選手権でさらに上の成績を期待する。そこに出るには年間10試合以上のワールドツアーに出る必要があり、正直大変」と語った。全日本引退は今年30歳を迎え、体力の衰えを感じ始めた水谷が第一線から退く準備段階。ただTリーグには出場する。

張本をはじめ若手の主流「前陣速攻」について「僕にはできない」と語る。時代の流れにはあらがえない。ただ今回、水谷のようなラリー、レシーブ、ブロック技術で巧みに試合を進める戦い方も「まだ通用する」と再確認し、「日本のレベルアップのため、まだ我々世代が若手への壁として立ちはだかる」と話した。

この優勝で4月の世界選手権出場権も得た。東京五輪の金メダルを世代交代のバトンにするため、五輪選考シーズンの初戦で最高のスタートを切った。【三須一紀】

◆水谷隼(みずたに・じゅん)1989年(平元)6月9日、静岡県磐田市生まれ。5歳から父信雄さんが代表を務める豊田町スポーツ少年団で競技を始め、青森山田中-青森山田高-明大。07年全日本選手権シングルスを17歳7カ月で当時、史上最年少制覇。08年北京五輪から3大会連続出場。16年リオ五輪ではシングルスで男女を通じて日本人初のメダル(銅)を獲得し、男子団体でも銀メダルに輝いた。172センチ、63キロ。