女子ショートプログラム(SP)5位の紀平梨花(16=関大KFSC)がフリートップの153・14点を記録し、合計221・99点で初出場初優勝を飾った。左手薬指を亜脱臼しながらトリプルアクセル(3回転半)を決めると、自らの判断で2本目は2回転半を選択。今季フリー全7戦トップに加え、国際大会5戦全勝をしぶとく導いた。SP2位の坂本花織は4位、同8位三原舞依(いずれもシスメックス)は3位となった。

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紀平は無心で得点発表を待った。総立ちの観衆に包まれ、腰を下ろした「キス・アンド・クライ」。「いつもは『何点かな』って計算するけれど、予想し忘れていた」。国際スケート連盟公認のフリー自己最高154・72点へ、あと1・58点に迫る153・14点。「153ってすごい高いじゃん!」。残り3人が演技し、初優勝が決まると「全部跳ぶ気持ち。できることはやり尽くした」とSP5・06点差の逆転を喜んだ。

勝負に徹した。浜田美栄コーチから3回転半について「1本目は絶対に跳ぼう。2本目は自分の感覚を信じて決めなさい」と送り出された。前日のSPは1回転半となって0点。リベンジを誓い、フリー前の公式練習は4本連続を含む計7本を決めた。本番は1本目を2・51点の加点で成功させ、2本目は2回転半-3回転トーループとした。「思った以上にリンクに慣れていなかったので、無理することなく、安全にいい成績を残せるように考えた」。シニア1年目ながら冷静な判断で完成度を求めた。

自覚が芽生えたのは昨年7月末だった。その時点でグランプリ(GP)シリーズ1試合のみの出場予定だった紀平は、第4戦NHK杯開催国枠の選考会に臨んだ。朝練習で跳んだのは3回転サルコー1本と2回転。母実香さん(47)は「普段の試合前は3回転を何本も跳ぶのに、おかしい」と気の緩みを察し、練習後の車中で繰り返し3度も「そんなんじゃ絶対に落ちる!」と厳しい言葉を浴びせた。年に1回程度のカミナリで危機感は伝わった。

22年北京五輪金メダルへの4年を逆算し、SPから3回転半を組み込めるシニア転向を決断。涙を流した紀平は「ごめん」と選考会の重みを再確認し、3回転半の成功で躍進のスタート地点に立った。母は「それからジュニアモードが消えた。意識が変わった」と娘を見つめる。

3日前に亜脱臼した左手薬指を固定したが、フリーでは影響を感じさせなかった。紀平は「指が伸びていることで空気抵抗が大きくなる。『強く速く』を意識した」と振り返る。何より世界と戦う気概を大一番で示した。

大会後は日本で患部を再検査し、問題がなければチャレンジカップ(21~24日、オランダ)に出場。その先の世界選手権(3月、さいたま市)へ「ショート、フリーでミスない演技をしたいのは、変わらない目標です」と誓う。また強くなった女王が、そこにいた。