男子ショートプログラム(SP)4位の宇野昌磨(21=トヨタ自動車)が15年のシニア転向後、主要国際大会12戦目で初の頂点に立った。

新ルールで今季前に得点記録がリセットされ、フリー世界最高の197・36点でSP8・42点差を逆転し、合計289・12点で6戦連続2位から浮上した。日本勢の男女同時優勝は5年ぶり。田中刑事(倉敷芸術科学大大学院)は7位、友野一希(同大)は12位。

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最後に名前を呼ばれた宇野が、笑顔で表彰台の中央に立った。主要国際大会では、決まって左に王者がいた。世界のメディアと向き合う記者会見も、この日は真ん中の優勝者席。「結果にこだわらずに試合に挑むと言い続けてきたけれど、やはり優勝できたのはすごくうれしい」。頂点に立って分かる心地よさだった。

魂を込めた4分の演技。直前の6分間練習では「攻める」「自分を信じる」「大丈夫」「できる」と次々にキーワードが浮かんだ。だが、最終組の1番滑走で演技に入ると無心だった。

冒頭からフリップ、トーループと単発の4回転を決めた。関係者によると昨年12月の全日本選手権で右足首の靱帯(じんたい)を部分断裂し、休養と捻挫を繰り返した。練習不足は否めないが、演技構成点は5項目全てで10点満点の9点台。滑り切ると四つんばいで倒れ込んだ。「本当はそこで寝ころびたいぐらい、しんどかった」。フリー世界最高点でシルバーコレクターは返上。すると五輪金メダルにさえ欲を見せなかった男が、劇的に変わった。

「世界選手権(3月、さいたま市)ではもっとたくさん練習して、なおかつ『優勝』できるようにしたい。結果にこだわった試合をしてみても、いいのかな」

順位に対するこだわりを持つのは、15年世界ジュニア選手権以来という。もちろんシニアでは初めてだ。

4位だった2日前のSP後、ホテルのベッドで17年5月から担当する出水慎一トレーナー(40)のケアを受けた。何げない会話が続いた1時間。その中で出水氏の言葉が引っかかった。

「昌磨には世界選手権で1位を取ってもらいたい。その方針でこの1年、やりたいと思っていた」

これまでは練習の成果が試合に出れば満足し、出なければ1位だろうが自分を責めた。考え方は変わらないが「僕ってあんまり自分の言葉(本音)を言える人が少なかった」。心を許す相手の思いは胸に響いた。

「1位を取るっていうのが、そこで『自分のためではなくて、みんなのためにもなるんだな』って思った。今年はたくさんの方に世話を焼かせてしまった」

その覚悟は具体的だ。「無理せずに無理する。本当に『けがする』『しない』のギリギリのラインで頑張って練習します」。残りは約1カ月。宇野が、かつてない使命感に燃えている。【松本航】

◆4大陸選手権◆ 国際スケート連盟主催で欧州以外の国・地域(アメリカ、アジア、オセアニア、アフリカの4大陸)が参加する。第1回は99年で、毎年1月か2月に開催。同時期に行われる欧州選手権に対抗し、選手たちに国際経験を積ませることが目的。参加枠は各国最大3人(3組)まで。今大会が21回目