ビックカメラ高崎の上野由岐子投手(37)が、午前中の3位決定戦(対トヨタ自動車)と午後の決勝(対ホンダ)の2試合に先発、1人で計271球を投げ抜き、チームに2年ぶりの優勝をもたらした。

前日16日のホンダ戦では登板機会がなく敗れた。万全の状態でマウンドに上がった3位決定戦。久しぶりの一発勝負の舞台で緊張していたという上野は「力が有り余っていた」と抑えが効かず、いきなり安打と2四球で2死満塁の大ピンチ。それでも「思い通りの球が投げられて、失投がなければ打たれない。不安はなかった」と後続を断ち切った。その後もコントロールに苦しみ、143球を要したが、最後は力でねじ伏せた。

わずか1時間後の決勝。岩渕監督は「何があっても最後は任せる」と“心中”する覚悟でエースを送り出した。上野も「最後だったので(連投の)準備はしていた。リズムを崩さないように」と味方の援護があるまで粘りの投球で応えた。

「疲労はかなりあった」という上野だが、観戦した日本代表の宇津木監督は「あれぐらいの球数なら大丈夫ですよ」と驚かず。実は決勝トーナメントの前に岩渕監督に「(16日に)もし負けても大丈夫。上野は連投させたら強いから」と話していた。予言通り、決勝は被安打4、11奪三振完封。413球を投げ、金メダルをもたらした08年の北京オリンピック(五輪)をほうふつとさせる内容だった。

4月に打球を受け、左顎を骨折。前半戦を棒に振った。上野は「こんなに投げなかった年はない」と振り返るが、リハビリ中にこれまでのトレーニング方法などを見つめ直した。「いろいろ考える時間ができていい経験になった」と前向きに捉えた。

東京五輪の会場で連投も経験。「想定しながら投げた。投げ切れたけど疲労感もあったので、本番でどんな調整をすればいいかこれから考えたい」。18日からは同会場で日本代表合宿が始まる。試合後にはマウンドの硬さについて意見もしたが「みんな同じ条件。環境に合わせてやるのも選手の技術」と今後しっかりと対応していくつもりだ。

「上野で負けたら仕方ない」(岩渕監督)、「失投がなくいい投球をしてくれた」(我妻捕手)。チームの期待に最高の形で応えた上野。来年の東京五輪で快投を演じ、日本国民の期待に応える決意は強い。【松熊洋介】