【オリンピア(ギリシャ)12日=三須一紀】新型コロナウイルスの感染拡大で世界保健機関(WHO)が「パンデミック(世界的大流行)」と表現したことを受け、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の高橋治之理事(元電通専務)が12日、日刊スポーツの取材に応じた。五輪の延期策について近く、組織委幹部と話し合いの場を持つ考えを示した。ギリシャでは聖火採火式が行われ、7月24日の五輪開幕へとつながる聖火リレーがスタート。一方で、トランプ米大統領が東京五輪は1年間延期すべきだとの考えを表明した。

    ◇    ◇    ◇

組織委の高橋理事はWHOの「パンデミック」表明を受け「当然だろう。日本だけでなく世界的な問題だ」と深刻に受け止めた。その上で、東京五輪の通常開催に向け事態はさらに悪化したとし、早急な対応が必要だと主張した。

高橋氏は延期ありきというスタンスではない。10日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)の取材に「中止はないが、1年か2年の延期が現実的」との見方を示した。組織委の森会長が11日に急きょ会見し「方向、計画を変えることは全く考えていない。消極的、悲観的なことは一切、考えてはいけない」と完全否定するなど、波紋が広がった。

日本メディアではなく米紙に延期策を語った真意を「個人的見解ではあるが、組織委の理事として、対応策を検討しているという姿勢を、IOC(国際オリンピック委員会)メンバーに知らせる必要があった」と述べた。日本にとっても中止は回避すべきだとし「このまま放っておけば、中止になってしまうかもしれない。言わなければ延期など対応策の議論すら進まない」との危機感からだったという。

高橋氏は電通時代から五輪やサッカーW杯など世界的スポーツイベントに深く関わってきた豊富な経験を持つ。組織委の武藤敏郎事務総長は12日、ギリシャで「パンデミック」を受けても「これまでとスタンスは変わらない。開幕に向けて安心安全な大会準備を計画通り進めていく」と話した。

関係者によるとWHOの表明を受けIOC側から日本側に、政府や組織委による通常開催に向けたコメントを出してほしいとの要請があったという。IOCジョン・コーツ調整委員長も採火式後に「7月24日に開幕だ」と言い切った。しかし、一方で組織委幹部の複数が「通常開催の準備は進めつつも、延期などの対応策を考える必要性が出てきた」と話し始めている。開催の決定権はIOCが持つ。ただ、今月末に行われる組織委の理事会に大きな注目が集まる。

◆五輪聖火の起源 古代ギリシャ人にとって火は、ギリシャ神話に登場する男神プロメテウスが全知全能の神ゼウスの反対を押し切り、天界の神々から盗んで人類に与えたものとされ、神聖なものだった。そのため、神々をあがめる祭典だった古代オリンピックの期間中、開催地オリンピアのゼウスとゼウスの妻ヘラの神殿に火がともされた。この起源から、近代オリンピックではヘラ神殿で採火が行われている。

一方、1896年アテネ大会から始まった近代オリンピックは当初、聖火自体がなかった。1928年アムステルダム大会で競技場の外に塔を設置し、そこに火をともし続けるという案が採用され、現在の聖火が生まれた。初めて聖火リレーが導入されたのが36年ベルリン大会。ギリシャのオリンピアで採火され、7カ国を経由してドイツの首都ベルリンに到着した。

◆高橋治之(たかはし・はるゆき)1944年(昭19)4月6日、東京都生まれ。慶応高-慶大。67年に電通に入社し、スポーツ事業局に勤務。サッカー、陸上などの大規模イベントで手腕を発揮し、02年サッカーW杯日韓大会や20年東京五輪招致にも尽力した。01年6月に電通常務執行役員、07年6月に専務取締役、09年6月に顧問就任。14年6月から東京大会組織委員会理事を務める。