ついにジョコビッチまでもが感染した。男子テニスで世界王者のノバク・ジョコビッチ(33=セルビア)が、新型コロナウイルスの検査で陽性反応を示した。23日、本人が明かした。また妻のエレナさんも陽性だった。本人は無症状だが14日間自主隔離をし、5日ごとに検査を受けるという。

ジョコビッチは今月、慈善大会「アドリア・ツアー」を、母国のセルビア、クロアチアなどで主催した。セルビアの大会は4000人の観客で超満員。マスクをした人もほとんどおらず、社会的距離もなく、選手らは抱き合い握手をし、コロナ禍以前と全く同じ環境で開催されたようだ。

しかし、参加していた元3位のディミトロフ(セルビア)が体調不良で棄権。21日に感染が判明すると、同33位のチョリッチ(クロアチア)らも陽性。彼らのスタッフにも感染者が出て、大会は中止に追い込まれた。

ジョコビッチは23日に「それぞれの感染者に本当に申し訳なく思う」と謝罪。大会開催には「純粋な心と誠意を持って開催した。連帯と思いやりの心を共有しようと考えた」と話した。そして「ウイルスが弱体化し、条件は満たされていたと信じていたが、残念ながらウイルスは存在していた」と、後悔した。

ただ、ジョコビッチの話が本当なら、非常に違和感が残る。男子テニスの世界的リーダーとして、率先してテニス復活の場を作る。経済を回し、テニスを元に戻す先頭に立ち、収入は慈善に回すという気持ちだったのだろう。そこは理解できる。

ならば、なぜ予防策を取らなかったのか。国によって状況は違う。しかし、社会的距離やマスクがなければ、感染の可能性は高まる。ジョコビッチは、そのリスクを納得していたことになる。また、新型コロナウイルスの世界的な拡大を見れば、大会をサポートする医療関係の専門家がいただろう。その人は、社会的距離なし、マスクなしを許可したのだろうか。もしそうなら、あまりにも無責任だろう。

まだ不可解なことはある。参加していた同3位のティエム(オーストリア)は、すぐに南フランスで開催される非公式大会参戦のために移動した。ティエムは濃厚接触者である。間違いなく自主隔離が必要だ。しかし、大会は、検査をするから安心といわんばかりに、ティエムが検査を受ける写真をSNSに掲載した。

たとえ、その検査が陰性でも、感染していないことにはならない。これは、すでに筆者のような素人でも、ある程度、今回の感染拡大で学んだことである。それを、ティエム自身、大会の専門家、関係者が知らないのだろうか。

テニス再開に向けた熱い思いが、逆に足を引っ張ったと思いたい。自分が助けたい、何とかしたいという純粋さが、ウイルスの前ですべて正しいとは限らないのだ。ウイルスは“忖度(そんたく)”などしない。テニスツアー再開に向け、関わる多くの人が、正しい知識を身に付け、ウイルスとのバランスを取っていかなくてはならない。非常に難しいことだが、それしか道はない。【吉松忠弘】