オリンピック(五輪)個人総合2連覇の内村航平(31=リンガーハット)が1年ぶりとなる再起戦に臨み、鉄棒で14・200点の6位とした。

両肩痛などの影響で、6種目を争う個人総合から1種目に専念する道を選んだ初戦。新技のH難度の離れ技「ブレトシュナイダー(コバチ2回ひねり)」では連続技につなげられなかった。歩み入った種目別という新領域は、さっそく数々の疑問を突きつけてきた。

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「いや~、1本なんで疲れてないですよ」

内村は「お疲れさまです」の司会者の声に、照れたように会見場に入ってきた。その姿も体操人生で「初」で、やはり試合も「初」に満ちていた。「悔しい気持ちが8割、1割は『どうしてなんだろう?』、もう1割は『しょうがないか』という気持ちですね」。

悔しさは当然、演技での失敗から。コロナ対策で入場制限されたが、約1000人で満杯の会場に、演技前から拍手が起きる。鉄棒を握り、回転を始める。18年に組み込もうとしたH難度のブレトシュナイダー。試合では初の新技に皆が目を見張った。

バーから手を離し、高く、鋭く、体を2回ひねり、再びバーをつかんだが、距離が近すぎた。「落ちたくない気持ちが強くて」。回転力を失い、次の車輪につなげられず、「落下はしてないんですけど、あれは落下と同等の減点ですね」。

その後の技はさすがの精度で決めきったが、演技後30分以上たった会見中も疑問が消えない。それが1割の「どうしてなんだろう?」。やはり6種目と1種目では準備が異なり、それがミスの原因か…。「(6種目では)最初はトップギアに入れない、2速くらい。そこから徐々にギアを上げたり、落としたりもする。最後に鉄棒でトップギアに入れるようにしていた」。この日の演技時間は60秒。そこだけに力を凝縮させる術の問題か。

ただ、もう1つの要因も考える。「1年ぶりの試合だったからかも」。それが残り1割の「しょうがない」。コロナ禍も重なり、昨年大会以来の実戦。「場数を踏んでいけばどうにかなるかも」。“トップギア問題”だけが課題かは、今後の見極め材料になる。

この日は他の6種目を実施する選手に交じった。「自分が1種目で、若干むなしいというか」と吐露した。ミスに対して落ち込まなくもなっており、「変化かな。失敗続きなので耐性がついている」とも。感情面でも、新しさはある。

頂点を極めた後、31歳で向き合う疑問の数々。ただ、会見の最後に語った言葉に悲壮感はなく、むしろ高揚を感じさせた。「1分で、今まで表現できていたもの以上を表現しないといけない」。解決に残された時間は1年弱。【阿部健吾】

○…鉄棒で内村の最大のライバルとなる宮地が会心の演技をみせた。冒頭から5連続の離れ技。I難度「ミヤチ」、内村と同じブレトシュナイダーなどを勢いよく決めきり、15・366点をマークした。「最近は鉄棒にぶら下がるのも苦しくて仕方ない」としながら、強さが際立った。「今日の出来では内村選手に勝てる自信はない」とさらに向上を期す。

◆ブレトシュナイダー コバチ(バーを越えながら、後方かかえ込み2回宙返り懸垂)をしながら2回ひねる。14年に発表され、15年にアンドレアス・ブレトシュナイダー(ドイツ)から命名。鉄棒ではI難度に次ぐH難度で、成功者は世界で数人に絞られる。

◆内村の五輪への道 東京五輪の代表枠は最大で6人。4人が団体枠で選考されるが、1種目に専念した内村は該当しない。狙うのは最大2枠の個人枠で、来年のアジア選手権などで国として獲得できる。来春に予定される選考会の全日本選手権、NHK杯、全日本種目別選手権の結果で、代表権がかかる。種目別のスペシャリストは鉄棒だけでなく、他5種目の選手もライバルとなり、激しい国内の代表争いが待つ。

男子個人総合2連覇の萱和磨は跳馬で新技ロペスにも挑戦 (東京五輪で)本気で個人総合で金メダル、団体でも金メダルを取りたいので、今日のD(スコア)は満足したくない。

女子で個人総合2連覇、跳馬と床運動を合わせて3冠の村上茉愛 この試合を経験したことでもう一段調子も上がる。全種目で新しいことに挑んでいきたい。

女子の寺本明日香は2月のアキレス腱(けん)断裂からの復帰戦で段違い平行棒のみ演技 4種目やるつもりで試合に来たが体と心の調子がすれ違っていた。基礎練習を積んで来年につなげていきたい。