東京オリンピック(五輪)で女子シングルス代表の石川佳純(27=全農)が5年ぶり5度目となる涙の復活優勝を果たした。同代表の伊藤美誠(20=スターツ)に1-3から逆転。フルゲームを制し、昨年まで4年間、2000年生まれの選手が優勝する中、ベテランの力を自ら示した。27歳での優勝は10年の王輝(当時31)以来の年長。男子は及川瑞基(23=木下グループ)が4-3で森薗政崇(25=BOBSON)を下し、初優勝を飾った。

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石川が泣いた。5年ぶりの女王に返り咲き、ガッツポーズの後、タオルに顔をうずめた。無観客の向こう側にいる応援者を想像し、優勝インタビューでも言葉をつまらせる。「うれしいです…。たくさんの人に感謝したい」。若手の台頭。自身の卓球が時代遅れと批判されたことも。それを乗り越え、感情を我慢する必要などなかった。

世界ランキング3位の強敵伊藤を、9位の石川が1-3の崖っぷちから撃破した。1ゲーム目を4-11と失うが2ゲーム目、伊藤の種類豊富なサーブを丁寧にネットぎりぎりの低さで返すと徐々にペースを握る。そのゲームを11-7で奪取。

ゲームカウント1-3とされても「伊藤選手は中国にも勝てるし、見習うところがたくさんある。年は上だけど『負けてもともと』。リードされても最後まで諦めないと決めていた」。

押されて体勢が崩れてもブロックやストップなどでチャンスを待ち、伊藤を焦らす。最終ゲーム、9-5から9-9とされても「まだまだだよ」と集中力を切らさない。勝負の1本。石川のフォアがうなる。伊藤の右側をストレートでぶち抜き、雄たけび。日本最高峰の戦いに決着がついた。

ここ数年、「全日本はもう取れない」「卓球が時代遅れ」と周囲からの心ない声を漏れ聞いた。19年12月、中国でのグランドファイナル後には「若い選手の方が中国選手に勝てると、周囲から疑いの目を向けられているのも知っている」とつらい心の内を話した。卓球台に張り付いて前陣で球をさばく高速卓球が主流になる中、中陣が主戦場だった石川は前陣でも戦えるよう、訓練を重ねた。

伊藤、平野美宇、早田ひな。00年生まれの勢いに、自信が揺らいだ。それでも「全然やれる」という家族、コーチの言葉を信じてラケットを振り続けた。「そうじゃないことを卓球が教えてくれた。周囲の言葉も気にしなくなった」。

五輪代表の誇りをかけ、石川と伊藤は日本一の技術をぶつけ合った。開催の風当たりが強くなる東京五輪だが、石川はアスリートの意思を明確に表現する。

「完全な形でなくても五輪で試合がしたい。私たちは一生懸命なプレーを続け、皆さんに見ていただくしかない」。2人は274センチ×152・5センチの卓球台の間でせめぎ合った。この熱戦が日本中にスポーツの力を示すメッセージとなることを信じて。【三須一紀】

◆全日本選手権の女子優勝回数 石川は5回目となり平野早矢香、大関行江に並んだ。石川は12年ロンドン五輪団体戦でともに銀メダルを獲得した平野と並んだことに「自分が高校生の時に平野さんの決勝をよく見ていた。すごく光栄です」と話した。最多優勝は6連覇を含む小山ちれの8回。2位は星野美香(現女子日本代表監督)の7回。(引退選手は敬称略)

◆石川佳純(いしかわ・かすみ)1993年(平5)2月23日生まれ、山口市出身。両親ともに卓球選手で、平川小1年で競技を開始。07年全日本選手権で13歳11カ月の史上最年少ベスト4。11年には高校生として22大会ぶり全日本初優勝。12年ロンドン五輪シングルス4位、団体銀メダル。16年リオ五輪は団体銅。14、16、18年世界選手権団体銀。158センチ。家族は両親と妹。血液型O。