1月に開幕したラグビーの「リーグワン」で開催の是非が問われている。新型コロナウイルスの感染急拡大で、新リーグのお披露目になるはずだった開幕戦の東京ベイ(旧クボタ)-埼玉(旧パナソニック)戦が中止。第3節(1月22、23日)は6試合のうち行われたのは2試合だけ。優勝、残留争いに影響が出るのは必至だ。担当記者3人が今後のリーグの行方を語り合った。

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平山記者 今月から始まったリーグワンでは、第3節までに1部が予定された18戦のうち8試合が中止、3部までを含むと既に計12カードが中止になっています。コロナの影響とはいえ、いくらなんでも多すぎませんか? シーズンが佳境になるにつれ、優勝や残留争いに大きな影響を及ぼすと思うのです。学生の頃、ラグビーをしていた先輩方は、どう見ていますか。

松本記者 規定ではキックオフ48時間前までに、登録に必要な選手がそろわないと中止になります。陽性者を出したチームが不戦敗で勝ち点0、一方で不戦勝のチームには勝ち点5が与えられている。第3節までの順位表を見ると首位の東京SG(旧サントリー)が「2勝1不戦勝」で3連勝扱い、2位のBR東京(旧リコー)は「1勝1不戦勝1不戦敗」で2勝扱い。3位のBL東京(旧東芝)は…。というように、誰もが納得する順位付けとは言えません。規定はオミクロン株の感染拡大前に協議、確定されたものです。

益子デスク まだ1試合しかしていない東葛(旧NEC)は、負けているのに「1敗2不戦勝」で勝ち点10を稼いで4位。一方で埼玉(旧パナソニック)も1試合だけで、勝っているのに「1勝2不戦敗」で勝ち点5の8位。1試合もできていない静岡(旧ヤマハ発動機)は勝ち点0で、2試合を戦って「2敗1不戦敗」の大阪(旧NTTドコモ)も勝ち点0だけど、得失点差で大阪が最下位。どこが本当に強いのか、全く分からない。

平山記者 埼玉は優勝候補ですよね? 開幕戦、第2戦と陽性者が出て中止となり、そこで勝ち点を失った。開催されていれば、状況は違ったはず。なぜ、こんなに分かりにくいリーグになってしまったのでしょうか。

松本記者 中止になった試合は代替試合が行われない。しかも、不戦勝のチームは無条件でボーナス点を含む勝ち点5が与えられる。チーム関係者からは「これでは不公平ではないか」という声を聞きます。

益子デスク 日々、コロナの状況が変わっているから安易には言えないのだが、リーグの開催を止めないという意思を感じるのは、個人的にはいいことだと思う。ほぼ全てのスポーツが止まってしまった20年の春から夏にかけては、絶望感しか抱けなかったから。ただ「不戦勝」「不戦敗」を取り入れてしまったことに問題があるように感じる。他のスポーツはどうなの?

平山記者 バレーボールのVリーグだと陽性者が出て中止となっても、代替試合を開催しています。規定には「不可抗力により公式試合の中止を決定した場合は、原則として開催要項に定める大会開催期間内に再試合を行う」と明記されている。コロナ=不可抗力としているようですね。

松本記者 順位の決定はどうしているんですか?

平山記者 Vリーグは勝敗で順位を競うことは変わらないけど、昨季からは各チームの消化試合数にばらつきが出ることを想定した対応が明記されました。その場合は、全チームが勝率によって順位が競われます。途中での試合中止の続出や打ち切りも現実的に捉えて大会の成立条件も緩和され、全チームの試合消化数が50%(従来は75%)達成されれば成立します。

松本記者 昨季のプロ野球でも、シーズン中に陽性者が出て試合中止を余儀なくされたことがありましたよね。野球の場合はどんなに過密日程になろうと代替試合を組んで、セ・パ共に143試合を消化しています。

益子デスク Jリーグにも代替開催のルールがある。どうしても開催できなくなった場合のみ「みなし開催」として、責任あるチームが0-3で敗戦となる仕組みだけど、J1では昨年は適用されなかった。G大阪に陽性者が出て3月は試合ができなかったけれど、最終的には全試合を戦ったから不公平感はなかった。ただ、G大阪などはスタジアムの指定管理を持つから日程変更が可能で、自前のスタジアムを持たないラグビーでは簡単ではないのかも知れない。

松本記者 リーグワンの根本には、ホストエリアがあります。チーム名には必ず「埼玉」「横浜」「神戸」など地名が入っている。ホストエリアを大事にしたいという理念は前提ですが、コロナ禍で緊急事態になると、そうも言っていられない。すでに始まっている今季の大幅な規定改正は難しいと思いますが、今後「陽性者が出た=不戦敗」ではなく、代替開催を視野に入れることも必要だと思います。スタジアムの都合がつかなければ、地方都市で開催するというのもあり。ホストエリアを外れても、普段ラグビーを見る機会のない地域で試合をすることにも、意味があるのではないでしょうか。

益子デスク 私がまだ子供の頃、故郷の茨城県日立市に、春のシーズンになると明大ラグビー部が試合に来ていた。地方の小さな陸上競技場だったけど、たまにサントリーや横河電機も試合をしていた記憶がある。ワクワクしながら見に行って、ラグビーを始めたきっかけになった。確かに不戦勝、不戦敗にするより、地方都市での開催も含めて検討するのもいいと思う。

平山記者 JリーグやBリーグもコロナ禍で行われている。各スポーツイベントを参考にしながら、リーグワンもなんとか試合開催にこぎつけることができないかを考える必要がありそうですね。今の状況は選手にとっても、ファンにとっても望ましい方向とは言えないです。

松本記者 シーズンが佳境になればなるほど、今のシステムには疑問が出てきそうです。勝ち点1を争うような優勝争いや、残留争いになった時、不戦勝と不戦敗がどう響くか。ラグビー界では試合開始48時間前に登録メンバーを発表しますが、プロ野球のように当日まで待つことで、陽性や濃厚接触者でないメンバーを選んで、何とか試合ができる可能性が広がるかもしれません。

益子デスク 確かに予定通り試合を戦ったチームと、不戦勝の多いチームが優勝争いをした時、一方のチームの勝ち点のほとんどが不戦勝による「勝ち点5」の積み重ねでは、後味の悪さが残ってしまうよね。

平山記者 リーグ側もここまで中止が続出するのは想定外だったとは思いますが、柔軟な対応が必要でしょうね。いずれにせよ、これ以上、陽性者が増えないことを願うばかりです。

〈座談会(リモート)出席者〉

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ入社。18年平昌五輪、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪などを取材。22年北京五輪ではフィギュアスケート、ショートトラックを担当。長らく西日本でラグビーを取材し、昨年末から東京ラグビー担当。好きな食べ物はほたるいか。現役時代はロック。185センチ、101キロ。

◆平山連(ひらやま・むらじ)1991(平3)年1月5日、千葉県市川市生まれ。法大出身。東京五輪に関わりたいと地方新聞社から転職し、20年1月に入社。21年東京五輪はスケートボード、サーフィン、バレーボールなどを担当。トキワ荘をほうふつとさせる古びた住宅で漫画「魁男塾」に登場するようなアクの強い面々とシェアハウス生活中。プロップ並みの体格もラグビー歴はなし。180センチ、115キロ。

◆益子浩一(ましこ・こういち)1975(昭50)年4月18日、日立市生まれ。京産大から00年入社。プロ野球の星野阪神、11年ラグビーW杯、10年と14年のサッカーW杯、ゴルフでは渋野日向子らを取材。著書に松本記者も取材協力した「伏見工業伝説」(文藝春秋)がある。現在は報道部デスクとして、主にラグビー、サッカーなどを取材する。現役時代はWTB、FB。172センチ、75キロ。