<陸上:織田記念国際陸上(北京五輪代表選考会)>◇29日◇広島ビッグアーチ◇女子100メートルほか

 北海道の女子陸上選手では、半世紀ぶりとなる五輪が見えてきた。女子100メートルで福島千里(19=北海道ハイテクAC)が日本タイ記録となる11秒36で初優勝した。チームメートの北風沙織(24)も11秒42の好タイムで2位に入り、そろって五輪参加標準記録B(11秒42)を突破した。400メートルリレーで北京を目指す日本女子短距離チームにとっては、強力な二枚看板の誕生。代表となれば、道産娘では58年メルボルン大会円盤投げの吉野トヨ子以来となる。

 ゴールを駆け抜けた福島は、ぼうぜんとした表情で立ちつくしていた。自己ベストを0秒24も短縮する11秒36。丸7年だれも届かなかった二瓶の日本記録に並んだ。「周りに言われて気づきましたけど、言葉になりません。何というか、驚きです」。タイムにも、優勝にも、実感がわかない。現実を把握できない、きょとんとした表情が、成し遂げたことの大きさを物語っていた。

 予選で11秒53、北風(11秒51)に次ぐ2位で通過した。決勝もスタート直後は3番手だったが、中盤から加速。ラスト10メートル付近で北風を抜き去った。「抜いたときは分からなかった。こんなタイムがでるとは」。高卒2年目。中学、高校と全国大会は2位ばかり。昨年4月、中村宏之監督(62)が指導する北海道ハイテクAC入りしたが、日本選手権100メートル決勝のレース中に故障し、世界選手権代表には届かなかった。

 所属先の充実した室内施設で、オフに鍛え上げた。マラソンの野口みずきらの靴も担当するアシックス三村仁司氏に指摘された左右の脚力のバランスの悪さは、レッグプレスなどで改善。所属先の先輩仁井有介(ベスト10秒36)と繰り返したスピード練習で、10秒台を体感してスピード感を養った。中村監督は「素材はいいものがあったが、そこに体がついてきた。まだ伸びるし(日本新となる)A標準(11秒32)も切れる可能性はある」と評価する。

 北京五輪も見えてきた。日本女子短距離陣が出場を目指す400メートルリレーは、持ちタイム上位16カ国に出場権が与えられる。日本陸連が最低ラインと設定しているのが、日本記録43秒77を更新する43秒50。残るチャンスは5月の大阪国際GP(10日)とプレ五輪(22日、北京)の2大会だが、福島にリレーで実績のある北風、石田、高橋を加えれば計算上は43秒23になる。「五輪はB標準を破ってからと思ってた」という福島は「これから考えます」と、はにかんだ笑みを浮かべていた。【松末守司】