北京五輪柔道男子100キロ超級金メダリストの石井慧(21=国士舘大)が、師と仰ぐプロレスラー小川直也(40)が主宰する小川道場に金メダルを「奉納」した。28日、神奈川県茅ケ崎市内の同道場で行われた五輪祝勝会に出席。親交のある小川に感謝の言葉を伝えると、道場内のメダルを飾る額の中央に自ら金メダルをかけてみせた。覇者の栄光を捨て再出発する意気込みの石井は、世界団体選手権(10月5日、東京武道館)で五輪後初の公式戦に臨む。

 新世代の世界王者らしい「金メダル奉納」だった。石井は「金メダルは魔物。持っていると勘違いしたり、五輪気分が抜けない。昨日の自分に勝ち続けたいので(金メダルを渡した)」とキッパリ。小川の目の前で、笑顔で道場の額に金メダルをかけてみせた。

 今年に入ってからも、国士舘大の練習が休みの日曜日には小川道場を訪れ「子供相手にリラックスができた」。柔道への助言をもらうなど小川への恩義を感じていた。道場には小川が92年バルセロナ五輪で獲得した銀メダルが飾ってあったが「小川先輩に『銀メダルを金メダルに変えてくれ』と言われていた。門下生として変えることができてよかった」。金メダルを他の道場へ「奉納」するなど異例中の異例だが、小川との約束を忠実に守った。

 さすがの小川も、これには「金メダルはいろいろな人に見せた方がいい。しばらくは(石井)慧に持ってもらう」と遠慮気味。上半身裸でプロレスのまねを始めて周囲の笑いを誘うなど“らしさ”を見せた石井の姿を見ながら、「今までいろいろな言動はあるけど本当の意味で義理人情のある人間だと思う」とフォローに回っていた。

 祝勝会の終盤に道場側から、大好きな日本酒「越乃景虎」の大吟醸を贈られた石井は「明大での出げいこで小川先輩にお世話になった。金メダルより、おいしい景虎の大吟醸をいただいたので(メダルは)いいです」と満面の笑み。「試合は負けはしない。絶対勝たないといけない」と話す世界団体に向け、最高の気分転換になったようだ。【菅家大輔】