今年いっぱいで所属する土屋ホームを退社するノルディックスキー・ジャンプの伊東大貴(22)が10日、W杯参戦のため新千歳空港を出発した。11日、経由する成田空港で代表チームと合流し、欧州に向かう。新たな所属先はまだ決まっておらず、W杯で好結果を残すのはもちろん、北京五輪柔道金メダリストの石井慧選手風パフォーマンスで“就活”を切り抜ける覚悟。石井ばりにジャンプ界の60億分の1を目指す。

 伊東はこの日、1人ぼっちで遠征に向けて旅立った。所属先が決まらない不安を象徴するようなシーンだが、気持ちが折れることはない。「今季は、より結果を出さなくてはいけない。表彰台の上で石井選手みたいにパフォーマンスしたいですね」。来年1月以降の収入のメドが立っていないだけに、その目は真剣だった。

 新たな所属先を探す中で、日本のジャンプが置かれている現実を痛感した。今月上旬には自ら都内で数社と交渉したが「道内で少しは有名でも、本州では知られていない。(反応は)厳しい」。98年長野五輪で金2、銀1、銅1のメダルを獲得した日本の栄華は今は昔。W杯の表彰台は07年1月の葛西3位以来ない。伊東自身も昨季は13位が最高で、表彰台は06年2月の札幌大会2位以来ない。一般的にみれば、ジャンプはマイナー競技の1つになってしまった。

 現状を打開するヒントは、北京五輪を境に国民的ヒーローとなった柔道の石井だった。「メディアを通してアピールすることは大事。ジャンプ選手は大会前はストイックになってしまって笑顔がない。ビッグマウスは出来なくても笑顔でパフォーマンスはできる」。そのためにも好成績が必要だ。今夏のサマーGPでは2位が3度。総合でも日本勢最高の6位に入った。オフから肉体改造に取り組み、体重は変わらなくても体脂肪率が10数%から8%になった。昨季から改良したジャンプは結果を伴いつつある。

 W杯、2月の世界選手権(チェコ・リベレツ)で結果を出せば露出も増え、がぜん注目度はアップする。「今季はW杯、世界選手権で表彰台に乗りたい。石井選手は金メダルは『自由への切符』と言っていたが、ボクも結果を出して新たな切符を手にしたい」。世界のメダルを、名刺代わりにする。【松末守司】