2001年(平成13)7月14日★08年五輪北京に決定

 北京が勝った。国際オリンピック委員会(IOC)は13日、モスクワでの第112回総会で08年夏季五輪の開催都市決定の投票を行った。最有力候補だった北京は2回目の投票で過半数を上回り、中国初の五輪開催を決めた。アジアでの夏季五輪開催は64年東京、88年ソウルに続き3度目。大阪市は1回目の投票でわずか6票に終わり、最下位で落選した。(AP、ロイター、共同)

 大歓声が上がった。花火が夜空を彩った。北京市西部の巨大なモニュメント「中華世紀壇」では、8000人の市民がお祭り騒ぎを繰り広げた。12億人を超える国民が、待ちに待った瞬間だった。8年前の屈辱を晴らした。93年、00年夏季五輪開催をシドニーと争い2票差で敗れた。脱落した欧州都市の票がシドニーに流れたためだった。だから今回は決選投票まで持ち込まれる前に決着をつけたかった。2回目での過半数獲得はシナリオ通りだった。

 スキャンダルに揺れたIOCが、倫理規定を改正して初めての開催都市決定だった。中国での五輪開催が国際政治に与える影響は計り知れない。IOCは自らのイメージ回復のために「歴史的決定」を選んだともいえる。

 中国は経済的に急発展している。北京自体もインフラの整備を急ピッチで進め、近代的な都市に生まれ変わりつつある。IOC評価委員会が指摘するように、五輪開催に必要な条件は7年後には整うはずだ。

 招致活動中に不利な要素となったのは人権問題だった。89年の天安門事件、チベット民族運動の弾圧に加え、気功集団「法輪功」に対する当局の迫害疑惑もある。先月、矯正労働所で法輪功の14人が集団自殺した事件も「拷問によるものでは」との声も上がった。しかし招致委員会は「人権問題は改善している」と言い続け、国民の五輪機運の盛り上がりを強調してきた。

 台湾での競技開催の可能性も検討されている。台湾の政権内には「少なくとも08年までは中国からの武力行使はない」と五輪を歓迎する声が多く、陳水扁総統も支持を表明していた。

 7年後の金メダル。中国のスポーツエリートたちは、人生最大の目標へスタートを切ることになった。★大阪は最下位落選

 大阪は今年5月、現地調査したIOC評価委員会のリポートで、イスタンブールとともに厳しい評価を受けた。都市基盤整備費に占める市の負担分や政府保証について明記がなかったことや、交通渋滞への懸念が指摘されていた。しかも日本では東京、札幌、長野と、夏冬3度の五輪を開催していることに加え、北京の立候補もマイナスだった。

 投票前に行われた招致演説ではトップで登場し、施設の充実、平和や理想を尊重する「温かい心」を強調した。ソウル五輪銅メダリストの小谷実可子さんのスピーチや、大阪市の中学3年生でバイオリニストの梁美沙さんの演奏もあった。小泉純一郎首相もビデオで「歴史に残る最高水準の大会にするため、財政的な支援ほかあらゆる努力をする」と約束。しかし、IOC内の知名度と評価の低さを変えられなかった。立候補後の招致ルールの変更も不利に働いた。スキャンダル発覚でIOC委員の立候補都市訪問が禁止された。「立派な既存施設があり、新たな施設建設を抑えられる点をアピールする」との思惑は外れた。

 今年5月以降、大阪市民からも「招致は税金の無駄遣い」との声が相次いだ。大阪湾の大規模なウオーターフロント開発、約40億円を投じた招致活動に対する批判、磯村隆文市長の政治責任追及の声が一気に高まりそうだ。

 ★磯村隆文大阪市長

 このような結果となり、期待におこたえできなかったのは残念。活動期間も短く、とりわけ多くのIOC委員に実際の大阪の姿を見せられなかったことが、初挑戦で知名度の低い大阪にとって極めて不利な条件だった。評価委員会報告書で、大阪が強みと考えていた財政、輸送面で懸念を示されたことが印象面でマイナスとなった。

 ★岡野俊一郎IOC委員

 北京は第1ラウンドで勝つのではといううわさがあった。大阪は長い間努力してきただけに、残念な結果となった。次にアジアに五輪が回ってくるのは恐らく20年くらい先になるだろう。

 ★八木祐四郎JOC会長

 非常に残念だ。1回目の立候補で力不足もあったかと思う。長野で冬季五輪を開催したことで「もう、1度やったじゃないか」という意向が(IOC委員に)あったかと思う。北京が勝ったことで大阪の12年の立候補は難しくなると思う。

 ★堤義明JOC名誉会長

 信じられない。まさか1回戦で落ちるとは。再度挑戦するのであれば、今回の反省を踏まえとことん戦略を練り直す必要がある。開催能力が劣るとは思えない。

 ★田中真紀子外相

 大阪開催が実現しなかったことは誠に残念。北京はアジアの隣国として祝意を表したい。五輪の成功を心より期待する。わが国として、中国側から要請がある場合には、五輪開催経験国として可能な限り協力を行う用意がある。

 ★近鉄中村紀洋内野手

 昨年のシドニーで五輪とは縁があるだけに残念です。地元のことなので気にはかけていたのですが。

 ★ゼンジー北京(コミック手品師)

 いやー、複雑な心境やね。生まれは「中国は広島」だけど、大阪は1歳から育った地元。五輪をやってほしかった。ただ北京も自分の名前だし、第2のふるさとだと思っている。84年に北京公演をしたときより交通事情もよくなっていると聞いている。中国で1回も(五輪を)やってないし、見てみたい気持ちはある。楽しみです。