<フィギュアスケート:世界選手権>◇5日目◇29日◇モスクワ

 【モスクワ=吉松忠弘】日本人初の2連覇を狙う浅田真央(20=中京大)が、世界選手権と五輪を通じて、自己ワーストの58・66点で7位発進となった。武器のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は、両足着氷で2回転半となり、3回転フリップも回転不足となった。バンクーバー五輪金メダルの金妍児(20)は、冒頭の連続3回転を失敗したが、後半立て直し65・91点で首位に立った。

 浅田は今にも泣きそうだった。得点を待つ間、何度もくちびるをかんだ。不安だけが募る硬い表情で、笑顔はまったくなし。「結果は結果として受け止めている」。58・66点は、世界選手権と五輪を通じて自己ワーストSPだ。初出場の07年世界選手権で出した5位の61・32点を、得点でも順位でも下回った。

 最初の3回転半がすべてだった。今大会の公式練習で、ほとんど決まらなかった。この日の午前の練習では、2度も転倒した。「練習で跳べていなかったので、思い切っていこうとは思った」。しかしスピードはなく「(練習より)ましだったと思う」程度。転倒がなく幸いだった。

 午前の練習後、全日本の時と同様に、佐藤信夫コーチから「3回転半はやめといた方がいい」とアドバイスされた。しかし、最後は自分の意思で挑戦を選んだ。全日本の時は成功し、SP首位発進でかけに勝った。しかし今回は、その挑戦もかなわなかった。

 今大会の会場メガスポルトとは相性が悪い。09年11月に出場したロシア杯では、当時、シニア転向後、自己ワーストの5位に沈み、初めてGPファイナル出場を逃した。「このリンクではいい成績を残していないので頑張りたい」。その思いも届かなかった。

 3月11日、自宅で東日本大震災の映像を見てショックを受けた。「私が、この大会に出てもいいのかな」と、周りの人にこぼしたこともあるという。「1カ月多く練習を積めた」と話すが、少なからず動揺したようだ。国内での練習でも「(3回転半は)こんな感じだった」と不調だった。

 しかし、今日のフリーは今季を飾る最後の演技だ。「もう気持ちは明日に向かっている。フリーの方が自信がある」。もう失うものはない。浅田の笑顔を待つ日本の人々のためにも、無心で3回転半に挑む。