<ラグビーW杯:日本21-47フランス>◇10日◇1次リーグA組◇オークランド

 日本が初戦で、優勝候補のフランスに大善戦した。後半は一時4点差に迫る奮闘で勝機を生み、本場の超満員の観衆を魅了。残り10分で3連続トライを許すなど最後は引き離され、歴史的金星とボーナスポイント(勝ち点)も逃したが、準優勝2度の強豪を本気にさせた。スコアは完敗だったが、ジョン・カーワン・ヘッドコーチ(46)が目標にするW杯2勝が現実的になってきた。

 ひたむきで、勇敢な侍が、大観衆の心をつかんだ。満員のスタンドが一体になり「ニッポン!

 ニッポン!」の大合唱。前半まではフランスの応援がほとんどで、日本の声援はかき消されていた。それが後半になると一転した。後半17分、SOアレジのPGで4点差に迫ると、興奮は最高潮に達した。フランスがボールを持つとブーイングが起き、日本の逆転劇を期待したファンは総立ちになった。

 歴史的大健闘だ。相手はW杯準優勝2度、過去6大会のうち4強を逃したのは1度だけ。日本は後半3、5分と2度もインゴールを割られながら、3人がかりのタックルで失点を封じた。前半の最大17点差を4点差とし、その後も攻め続けた。

 悔やまれるのは残り10分。逆襲から3トライを許し、金星も、7点差以内の敗戦に与えられるボーナス勝ち点も逃した。それでも地元出身のカーワンHCは「みんな(日本の)勇気を見ました。日本はすごいプレーをした。ここはニュージーランド。みんなラグビーが分かるんです」と胸を張った。

 傷ついた人へ、伝えたい思いがあった。どんな困難にも諦めてはいけない心、そして強い気持ち。試合会場へと向かう直前、全員が集まって1枚のDVDを見た。映っていたのは衝撃的な映像だった。東日本大震災で東北を襲った津波、がれきの山で泥だらけになって生きようとする人々。固い決意を再確認し、涙を流してグラウンドへ向かった。宮城県の実家が被災したプロップ畠山は「言葉じゃない。姿勢で見せたい」と言った。世界最強と呼ばれるフランスのスクラムで何度も反則を取られた。それでも諦めない。1歩でも前へ出ようと、必死だった。

 目標のW杯2勝が現実味を帯びてきた。次戦は世界ランク1位で開催国ニュージーランド。95年大会で17-145の屈辱的大敗をした相手だ。道は険しいが、3戦目トンガ、4戦目カナダには勝機がある。SH田中は「日本のためにという、いろいろな思いがあった。結果を残せなかったのは悔しいですけれど、確かに自信はついた」。日本国籍のCTBニコラスも「こんなに楽しいとは思わなかったね。日本にもチャンスはある」。

 過去6大会で日本は1勝だけ。歴史を塗り替える旅は、始まったばかりだ。【益子浩一】