<フィギュアスケート:グランプリシリーズ第6戦・ロシア杯>◇2日目◇26日◇モスクワ

 【モスクワ=今村健人】男子ショートプログラム(SP)2位で16歳の羽生結弦(ゆづる=東北高)が、フリーで自己ベストを更新する158・88点をマーク。総合241・66点で、2位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)をわずか0・03点上回り、日本男子最年少で初のGP優勝を飾った。同時に初めてのGPファイナル(12月8日開幕、カナダ)進出も決めた。4回転ジャンプで転倒したものの、高い表現力と機転で逆転。日本男子に新しい風が吹いた。

 羽生は驚いていた。冒頭の4回転ジャンプで転倒した。上体を反らしすぎてステップでも転んだ。それでも、高い演技力と確かな技術で、自己ベストを7・30点上回る158・88点。さらに、フェルナンデスを0・03点超えた。最後のアボットが3位に沈んだとき、逆転優勝が転がり込んだ。「GP優勝が初めてというより、表彰台が初めて。それで優勝なんて…」と目を丸くして喜んだ。

 機転が勝敗を分けた。中盤に予定していた3連続と2連続、2つの連続ジャンプから、いずれも最後のジャンプが抜けた。だが、同じような場面で欲張り、むちゃをして転倒した中国杯の反省を生かして「冷静に」考えた。慌てず3回転ループだけの部分に、基礎点1・4点の2回転トーループをつけた。このジャンプが勝負を分けた。「0・1点以下の勝負だった。つけなければ絶対に負けていた。考えながらできたのが一番の収穫」と胸を張った。

 東日本大震災で仙台市の拠点のリンクを失い、全国を転々とした。ホテルに10連泊は当たり前。実家にはほとんど帰れなかった。親しい友人も知人もいない中で、16歳の少年は「地元のために」と、技と心を磨いてきた。「おかげで環境の変化が気にならなくなりました」。7位に沈んだ昨年のロシア杯と同じリンクで、確かな1歩を刻んだ。

 中国杯の4位から巻き返し、初のファイナル進出を決めた。「やっとその一員に入れたことがうれしい。可能性が絶体絶命だった中で行ける。世界選手権にも近づけたかな。精いっぱい頑張りたい」。高橋、小塚、織田。3強時代が続いた日本男子陣に、新しい力が出現した。