<競泳:日本選手権>◇最終日◇8日◇東京辰巳国際水泳場

 女子背泳ぎの酒井志穂(21=ブリヂストン)が再び「僅差」に泣いた。200メートル決勝を2分9秒59で制したが、五輪派遣標準記録に0秒13及ばず号泣。0秒02差に泣いた100メートルに続き、わずかな差でロンドン五輪出場を逃した。

 歓声のち絶叫は、悲鳴で終わった。五輪イヤーで初の7日間開催、全26種目のラストは「ため息」だった。主役は果敢に泳いだ酒井。1分35秒71でターンした150メートルまでは、順調だった。場内のスクリーンには「派遣標準ペース」の黄色い線が映し出される。最後の最後、ついにイエローラインが酒井を追い越した。差はわずか0秒13。悲劇の主人公は両手を膝につきながら「言葉が出ないです…」と、おえつを漏らした。

 雪辱を期していた。高校3年生だった08年北京五輪の選考会。100メートルで派遣標準記録を突破したが、伊藤華英と中村礼子に次ぐ3位だった。中村とはわずか0秒29差。今回の100メートルでは寺川綾(ミズノ)に続く2位になりながら、派遣標準記録に0秒02届かなかった。レース後は深夜3時まで泣き続けた。厳しい表情の母道子さん(47)の言葉にハッとした。「私は涙の一滴も出ない。まだ200があるじゃない」。

 母の愛情で前を向けた。故郷福岡からは多くの応援団が駆けつけた。スタンドには「ガンバレ!!

 酒井志穂」と手製の応援紙。「三度目の正直」で恩返しを狙ったが、初の夢舞台は夢のまま終わった。「4年前と同じ悔しさを味わうことになって。五輪に行きたかった…」。表彰式後も「気持ちの整理がつかない」と会見に出られず、控室で泣き崩れていた。

 女子200メートルの背泳ぎは00年シドニーで中尾美樹、04年アテネと08年北京では中村礼子と、3大会連続で銅メダルを獲得してきた。歴史が途切れた「派遣なし」の衝撃は大きい。4人の高校生が代表入りするなど、イキのいい「トビウオジャパン」も見せた大会は悲劇で終了。4年後の酒井はトレードマーク「えくぼの笑顔」を見せられるのか。乗り越えられない試練など、与えるわけがない。【近間康隆】

 ◆競泳の五輪代表選考

 個人種目は日本選手権決勝で2位以内に入り、日本水連設定の派遣標準記録を突破すれば代表に内定。国際水連が定める五輪参加標準記録よりも厳しいもので、五輪16位に相当するタイム。100メートルと200メートル自由形では、リレーの派遣標準を突破して代表入りすることもある。4位までのタイム合計がそれぞれ400メートル、800メートルリレーの派遣標準をクリアすれば4人全員が代表入り。切らなくても、リレー派遣標準を4で割ったタイムを突破した選手を選び、個人種目に出場させる可能性もある。