<アマチュアボクシング:女子世界選手権>◇5日目◇15日◇中国・秦皇島

 あまりにあっけなく夢が散った。お笑いコンビ「南海キャンディーズ」のしずちゃんこと、ミドル級の山崎静代(33=よしもとクリエイティブ・エージェンシー)が、3回戦でアンドレア・シュトローマイヤー(ドイツ)に1回1分56秒、3度目のダウンを喫し、レフェリーが試合を止めるRSC(レフェリーストップコンテスト)で敗れた。今大会のアジア最上位が得る五輪出場権に手は届かず、大陸推薦枠での出場も厳しい。本格的に競技を始めて3年。芸人と競技者の二足のわらじをはいた挑戦は1つの終幕を迎えた。

 戦い続けてきたリングで、最後はぼうぜんと立ち尽くした。目の前で振られるレフェリーの手に現実感がないまま、試合終了のゴングを聞いた。ボクサー山崎静代の戦いの終わり。あっけなく、むなしく、悔しさしか残らなかった。

 山崎

 何もわからなかった。これで終わってしまったのかな。勝負というのは一瞬で終わってしまう…。

 涙を我慢してリングを下りたが、控室のトイレで20分泣き腫らした。誰にも悔し涙はみせたくなかった。負けた実感が起きない。それが悔しかった。

 前日のニザモワ戦で国際大会初勝利を挙げた山崎ではなかった。「慎重にいきすぎました」。サウスポーの苦手意識が先に立ち、足が出ない。左ストレートをもらい、40秒過ぎにスタンディングダウン。無理やり前に出ようとし、さらに深くパンチをもらい1分10秒に再びダウン。最後は左ストレートからの連打を胸に受け、試合は止まった。

 この3年間は「気の弱さ」との戦いだった。優しさの裏返しで、自己主張できず他人に合わせる本性。「優しさが弱さにつながる…」と思い続けた。攻めを受けては防戦一方になる。

 「精神的にここまで自分が苦しかったことって今までなかった」。ストレスで練習中に号泣、さらに壁に頭を打ち付け、タオルをかんで我慢するほど自分と戦った。過呼吸とみられる呼吸困難、パニック障害に近いような症状まで起きた。それでも「運命」と信じた五輪出場へ競技を続けた。

 その戦いに勝利したのが前日の試合だった。受けない、前に出る。何度殴られても前進し続けた。梅津トレーナーは「本当に勝ったんですよ。それがすごいんですよ」と感動に震えていた。それは1つの勲章だ。

 芸人の枠を超え、自分を追い込み、その戦いに勝った競技者としての山崎。AIBAは現在満35歳の定年を37歳まで延ばす協議を進めている。ロンドンの可能性は、ほぼなくなったが、4年後の挑戦を始めるのか。「今は考えられません」。そう言葉を絞り出した。【阿部健吾】