<岐阜国体:競泳>◇15日◇岐阜・長良川スイミングプラザ屋外プール

 18歳の伸び盛りが世界新記録!

 少年男子A200メートル平泳ぎ決勝で山口観弘(あきひろ、鹿児島・志布志高)が2分7秒01をマークし、ダニエル・ジュルタ(ハンガリー)の世界記録2分7秒28を0秒27塗り替えた。得意の後半にペースを上げ、憧れの北島康介(日本コカ・コーラ)が持っていた2分7秒51の日本記録も大幅に更新。「リオの星」と期待される高校3年生の成長ぶりに、水連幹部も「スーパースターになれる」と絶賛した。

 熱い太陽に負けじと山口が輝いた。世界最速でゴールすると、しばらく電光掲示板を見ていた。歓喜の声に遅れて、ようやく右手で「1」。表彰台では両手で再び「1」と指さした。11日に18歳になったばかりの県立高校3年生が、世界一へ躍り出た。「好きな」屋外プールで風もほとんどなし。天も後押しして憧れの「キング」北島、そしてロンドン五輪の優勝タイムも抜き去った。伸び盛りは、まだ底なしのようだった。

 山口

 最初は2分7秒80と見えて「遅いな」と。よく見たら01だった。正直、狙っていたのは(史上初の)6秒台だった。「史上初」とか「人類初」という言葉が好きなので。どっちかと言うと悔しい。もう少し後半が…課題が残るレースではあります。

 150メートルまではジュルタの世界記録より遅かった。そこからのラスト50で圧巻の32秒23。「アップの時に7秒台前半は出ると思った」手応えとともに「リニアモーターカー」と言われる泳ぎでスイスイとかき分けた。8月の高校総体で2分7秒84、JO杯では2分7秒57をマーク。勢いが本物であることを証明した。

 昨年の国体は2分11秒50の大会新で制した。わずか1年で4秒以上も更新。昨年11月から北島を育てた平井コーチの指導を受け「五輪選手の中で肉体的にも精神的にも強くなった。向上心が出て、今は泳ぐごとに強くなりたい」。ロンドン五輪出場を逃した悔しさもバネにした。

 夢の有言実行だ。小学校に入ると部屋にヒーロー「北島」のポスターを張った。いつの間にか、そこに書き込んでいたのは「おまえをぬかす」の言葉。育った志布志市営プールは週4日、最大100分しか専用で使えない。恵まれたとは言えない環境の中で、父日出美さん(56)が「水泳オタク」というほど北島のVTRや雑誌を何度も見た。10年以上の時を経て現実に「抜かす」日が訪れた。

 大会前から、日本水連の上野競泳委員長は「世界新を狙わせる」と公言していた。重圧の懸かる状況で達成し、平井コーチは「期待されている中で出す。スーパースターの条件ですよ」と絶賛。無限の可能性を秘めた世界一の男は「これからも挑戦者で。小さい子供たちに勇気を与えられるようになりたい」と力を込めた。周囲に「5秒台を出す」と宣言するリオ五輪へ。もう「新星」の冠が失礼なほど、山口が世界の中心に立った。【近間康隆】

 ◆山口観弘(やまぐち・あきひろ)1994年(平6)9月11日、鹿児島・志布志市生まれ。5歳から志布志DCで水泳を始め、昨年4月に100メートルで北島康介の持つ高校記録を塗り替え、今年1月には200メートルでも高校記録をマーク。4月の日本選手権では両種目とも派遣標準記録を切ったが、北島と立石諒に次ぐ3位で五輪出場できず。来春に平井コーチが指導する東洋大に進学する予定。家族は両親と兄。174センチ、67キロ。血液型B。