柔道女子日本代表の次期監督選出に、選手の声が届く。暴力行為などで選手から告発されていた園田隆二監督(39)の辞任が1日、正式に決定。全日本柔道連盟(全柔連)の上村春樹会長(61)は、次期監督について「選手の意見を聞いて決めたい」と話した。選手の意見が監督選考に及ぶのは極めて異例だが、指導陣と選手との考え方の違いを埋めるための措置。人選はもちろん、強化方針、プランまで選手の意見を参考にし、4月1日をめどに新体制をスタートさせる。

 選手の悲痛な叫びが、柔道界を変える。上村会長は「次の監督を決めるのは選手の意見を聞いてから」と明言した。「15人が誰かは分からないが、今後も中心的役割を負う選手なのは間違いない。ヒアリングをきちんとしたい」。2日前は「意見があれば聞く」と受け身だったが、今度は告発した15人に対する積極的な聞き取りを口にした。

 代表監督は強化委員会など協会や連盟の首脳陣が決めるのが普通。選手の声で監督が代わるという前例にもなりかねない。しかし、実際に選手の告発が監督辞任につながった今回は事情が違う。「園田監督はよくやっていたと思うが、選手とすれ違いがあった」と上村会長は話した。監督を決める側と選手の考え方の違い。その溝を埋めないと、再び事件は起きる。

 暴力行為や暴言などの排除はもちろんだが、選手たちの要求はそれだけではない。強化日程、練習法、体制の問題など。本格的な指導法の勉強もなく、海外留学経験もない園田監督に物足りなさを感じていた選手もいたという。上村会長は「今の選手の気持ちを理解できて、選手とともに頂点を狙える監督を」と話した。

 もちろん、監督交代だけで問題が解決するわけではない。すでに選手の生活や精神面をサポートする「支援ステーション」を設置しているが、今後も選手の環境改善を続ける。「強化体制、方針、策も選手の意見を聞いて」と上村会長。五輪の正式競技に採用されてから20年を過ぎ、ようやく女子柔道が「大人」として扱われようとしている。

 今日2日に初戦が始まる欧州遠征は、田辺勝コーチ(40)が指揮を代行する。斉藤仁強化委員長(52)は「今の選手を一番に考え、戸惑いを最小限にすることが大切」と話した。欧州遠征後に選考作業に入り、4月1日をめどに新体制をスタートさせる。「今も昔も選手が求めるのは自分を強くしてくれる指導者。それは変わらないが、手段は変わった」と上村会長。今の選手の考えを知ることが、改革への第1歩となる。

 ◆園田監督の暴力発覚経緯

 10年8月~12年2月の間に5件の暴力行為とパワハラ行為の事実が判明し、ロンドン五輪後の昨年9月に全柔連がそれを把握。10月に園田監督と当該選手の聞き取り調査が行われた。11月5日に続投を発表し、同10日に厳重注意処分が科された。だが、12月4日に代表選手ら15人が連名で、日本オリンピック委員会(JOC)に暴力行為などを告発する異例の行動に出るに至り、JOC女性スポーツ専門部会にメールで体制見直しを求めた。全柔連は1月19日に監督以下6人に戒告処分。だが、27日までに計9選手が再びJOCに出向き被害を訴えるなどし、29日に一連の経過が明らかになり、大問題に発展した。