全日本柔道連盟が自ら、組織統治機能(ガバナンス)欠如を露呈した。21日、日本スポーツ振興センター(JSC)助成金問題に関する第三者委員会が提出した最終報告書で、全柔連が「要望書」という形で反論文書を提出し、具体的根拠がないと断定されていたことが明記された。文書は上村春樹会長(62)含む3人の幹部の独断で作成されたもので、現体制の問題点が浮き彫りになった。

 不祥事の調査を依頼した側が、第三者の調査に異論を唱え、堂々と訂正を求める。そんな判断を下してしまう一部幹部が「長」として君臨する。それが今の全柔連の実態だ。

 「世間からどう見られるかわかってないんですかね。そのへんが常識とのズレで、この問題の根っこ」。要望書の話題が出た会見場で、弁護士の望月浩一郎委員は苦笑交じりに言った。

 JSCの助成金を調査する第三者委員会が、中間報告したのは4月26日。指導実態がない指導者の受給を「組織としての順法精神の欠如」、助成金の一部を徴収していた強化留保金を「社会通念に照らし不適切」と指摘したが、全柔連はこれに反論し要望書を提出した。

 その内容に具体的事実は皆無。文言は「強化留保金は全柔連とは関係のない資金」と一方的に記すだけで、その根拠も分からない。それでは「当委員会の見解を単に理由なく否定するもの」(山内委員長)と切り捨てられても仕方ない。

 計3回提出された要望書は、上村会長、小野沢専務理事、村上事務局長の3人だけで作成していた。組織の重要決定事項を、理事会の決議も通さず…。その感覚こそが統治能力欠如の証左だが、上村会長は「(臨時理事会開催日の)月曜日に話します」と繰り返すだけ。その理事会でも会長責任は問われないことが濃厚だ。

 最終報告書では、強化留保金に関して、上村会長は歴代強化委員長の1人としての責任も問われた。果たして、委員会に射抜かれた「問題の根っこ」を見つめ直すのはいつになるのか。【阿部健吾】

 ◆「要望書」の内容

 5月14日の小野沢専務理事名義<1>、同28日の村上事務局長名義<2>、最終的に<1>と<2>をまとめた<3>が上村会長名義で6月4日に出された。<1>は中間報告に対する事務局員の事務局長宛ての上申書。強化留保金は「強化スタッフだけで管理している、互助会的な私的資金」「たった1人の常軌を逸した人物により、公私混同、不適切な時期があった(だけ)」「別人格である息子の財布の管理はしない」と全柔連の関与を否定。「まるで検事の見立て捜査による取り調べ結果のようなものであり、がっかりしました」「上村会長をヒール役に仕立てようとする巨大な力が、メディアや一部の人を後ろで操っているような感じ」などと批判。<2>はさらに中間報告書の内容訂正を求めたもの。