全日本柔道連盟の上村春樹会長(62)が23日、ついに国から「辞任勧告」を受けた。内閣府に呼ばれて公益認定等委員会から安倍晋三首相(58)名の勧告書を受け取った。新法人制度が施行された08年12月から勧告が出されたのは初めて。8月末までに信頼を回復するための処置を講じることを求めたものだが、会見した同委員会の山下徹委員長(65)は、言葉を選びながらも会長の辞任を含む体制刷新を求める考えを示した。

 上村会長の顔は、こわばったままだった。稲田朋美行政改革担当相から勧告書を受け取ると「いろいろな問題でお騒がせし、心からおわびいたします」と頭を下げた。公益法人に初めて出た書面の右上には、安倍晋三の名と総理大臣印。「真摯(しんし)に受け止めて、対応したい」。硬い表情のままで言った。

 安倍首相は4月の参院予算委員会で苦言を呈していた。暴力問題などや助成金不正受給に「極めて残念。青少年に悪い影響を与える」。中学校の柔道など武道必修化を決めたのは第1次安倍内閣。柔道への思いもあるだけに「みんなが考え方を変える必要がある」と再生を期待して話していた。

 首相の名前で突きつけられた勧告は、厳しい内容だった。上村会長を含めた全柔連の組織が「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎と技術的能力に欠ける疑いがある」と指摘。執行部(会長、専務理事、事務局長)、理事会、監事、評議員会までも「職務上の義務に違反している疑い」と「ダメ出し」をされた。

 上村会長は、改革・改善プロジェクトで信頼回復に努めているつもりだったはず。改革を軌道に乗せた10月の辞任も公言していた。しかし、それでも勧告が出された。山下委員長は「今やられていることは実行してほしいが、その後に疑問がある」と厳しかった。

 求められるのは、体制の刷新だ。同委は「(勧告より上の)命令になるから」と具体的な処置には言及しない。「人事は法人が責任をもってやるもの」と山下委員長。それでも、同委員長は「責任をとってやめることは必要。結果として、そう(辞任と)なることはある」。同委の高野修一事務局長も「そこまで言わせないで」と暗に辞任を求めた。

 もっとも、稲田行革担当相から「信頼回復に努めてください」と言われ、山下委員長からも「8月末までに適切な処置を」と求められた上村会長は「改革を進めたい」と変わらない意欲をみせた。勧告書の行間に早期の退陣を望んだ同委の思いも届かず、1度は「(辞任時期の)前倒しもある」と話したが、その後は「メドは10月」と繰り返した。

 勧告書では不正受給、不正徴収した助成金6055万円についても「速やかに返還し、責任の所在に応じた賠償請求等を検討すること」とされた。公益法人である全柔連に損害が生じることは「国民の資産に穴があくこと」だからだ。上村会長は「それは検討する」と話したが、何も進んでいない現実では行政府の理解が得られるはずもない。

 この日、公益認定等委員会は「公益法人の自己規律について」という異例の声明を出した。「公益法人は国民の信頼なくして成り立たない」という内容だ。あくまで改革を進めたいという上村会長に対し「国民の声」を背景に首相の名前で突きつけられた「ノー」。これまでにない重い指摘を、上村会長と全柔連はどう受け止めるのか。