<フィギュアスケート:GPシリーズ第1戦スケートアメリカ>◇19日◇米デトロイト

 男子はSP1位の町田樹(23=関大)が、フリーでもトップの174・20点で、世界歴代5位の合計265・38点で優勝した。

 肩口が炎のオレンジに染められた羽の生えた衣装を震わせていた。「火の鳥」を演じ切った町田がフィニッシュポーズで高く掲げた両手は、ソチの切符をつかむかのよう。「I

 did

 it!(やったぜ!)」。得点が発表され、優勝が決まった直後の英語のインタビューで声は弾む。3枠の狭き門を争う五輪代表権に自信と結果を加えた。そして続けた。「確かに1歩は近づけた。でもその油断が足をすくう。『勝ってかぶとの緒を締めよ』で、まだ自分は崖っぷちにいると思って頑張りたい」。

 緒を締めなかった昨季があった。GP初優勝した中国杯の後、知らず知らずに落とし穴にはまった。GPファイナル初出場を決めた歓喜があだになった。「本当は『ファイナル決まったけどどうしよう』、そんな危機感が必要だった」。実際は浮かれて気が緩み、心身のバランスは崩れスランプに。GPファイナルは最下位6位、年末の全日本選手権は9位と撃沈した。

 決めたのは心機一転。年が明け、美容院でお願いしたのは「3ミリで」。丸刈りにして出直した。4月には2季過ごした米国から、「基礎に立ち返る」と拠点を大阪に。そこで、氷上に正確な図形(Figure)を描くかつての「規定」に初めて取り組んだ。90年に廃止された競技の原点に立ち戻り、毎朝5時前に起きて、ジャンプにもつながる正しい体の使い方とエッジワークを体得。安定感が生まれ、この日も2本の4回転の成功につなげた。

 伏兵が初戦で一気に主役候補に躍り出たが、あくまでそれは周囲の評価と肝に銘じる。「この優勝は五輪枠の争奪戦でアドバンテージにはならない」。緒は固く締めたままで進む。<町田樹(まちだ・たつき)アラカルト>

 ◆生まれ

 1990年(平2)3月9日、神奈川県。

 ◆サイズ

 身長162センチ、体重52キロ。

 ◆競技歴

 千葉・松戸市のリンクで3歳から。両親に目立ったスポーツ歴はなく「サラブレッドではまったくない」。家族で移住した広島県で育ち、岡山・倉敷翠松高時代の06年全日本ジュニア選手権で優勝。昨季の中国杯でGP初制覇。全日本選手権では09年と11年の4位が最高成績。現在のコーチは大西勝敬氏。

 ◆1人好き

 「協調性がない」とチームスポーツも苦手。フィギュアは「1人で全責任が負えるから良い」。外遊びより家が好きで、「一日中しゃべらないことも多い」。

 ◆読書家

 常時2冊を持ち歩く。好きな作家は海堂尊、東野圭吾ら。海外文学も好み、SPのテーマである「エデンの東」著者スタインベックのファン。現在は「怒りの葡萄」を読む。

 ◆哲学

 ドイツの哲学者ヘーゲルが美学を問う著書なども愛読し、「フィギュアを1つの芸術性作品にしたい」。

 ◆好きな著名人

 堺雅人(俳優)、モーリー・ロバートソン(ジャーナリスト)。