<フィギュアスケート:GPシリーズ第1戦スケートアメリカ>◇20日◇米デトロイト

 浅田真央(23=中京大)がGP初戦を完全優勝で飾った。ショートプログラム(SP)に続き、フリーでも131・37点で1位。ジャンプの転倒で足にダメージを抱えながら高得点を出した合計204・55点は、自身4度目の200点超えとなった。男女を通じて初めて、ファイナルを含むGPシリーズ全7大会を制する快挙も達成し、集大成として挑むソチ五輪へ大きな期待を抱かせた。

 周囲を慌てさせた。表彰式の表彰台の真ん中で、浅田が体をよろけさせた。3位のラジオノワと抱擁し、前かがみの姿勢を戻すと、思わずふらついた。2位ワグナーに手で支えられて苦笑い。力が入らないのか、足も笑っていた。

 冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)が大打撃だった。「昨日よりも良い感じで跳び上がっていて、片足でいけると思って、片足で降りようとしたんですけどよろけました」。両足を絡めて転倒して左臀部(でんぶ)を痛打。負ったダメージが体力をむしばんでいく。「後半に足にきてしまっていて、うまく力が入らなかった」と、終盤の連続ジャンプも回転数を落とすほど。ただ、その苦境にこそ強さは際立った。

 スピン、ステップは4つとも最高難度「4」を並べた。足の影響でメロディーに遅れがちになるのをこらえ、最後のステップまで。演技後に見せた「あちゃ~」と声が出そうに目を見開く表情も、どこか余裕を感じさせる。もともとが佐藤久美子コーチが「よくこんな難しいことをするな」と驚く、超高難度構成。体力消費が激しいなかで、スケート技術などを示す演技構成点で自己記録を出したことが進化を示していた。

 佐藤信夫コーチは、体力について「今までは長距離的だったが、今季は中距離から短距離に近い使い方もできるようになっている」と評する。長距離はフリーの4分間を滑り切る力。短距離はその中で使うダッシュ力のこと。フィギュアは、ジャンプ、スピン後などに滑りが止まり、再加速が必要な競技。「車が赤信号で止まって発進する。その連続です」と例える。

 10年バンクーバー五輪後の3季で、滑走スピードを上げてきた。最高速度を上げれば、使う体力も増える。日々の練習で響くのは「そこでもっと早く!」の佐藤信コーチの声。加速の意識を植え付けるため、体がきつくても何度も繰り返した。その氷上での蓄積が、耐える体力を生む。

 05年の初参戦から9季。誰もできなかったGPシリーズ完全制覇も達成した。「すごくスケート人生にとってうれしいこと」。引退を決意する今季に、フィギュア界に1つの金字塔を打ち立てた。そして、同様にうれしいのは「得たもの」。もう10代のころのように「3回転半次第」の選手ではない強さがある。

 バンクーバー五輪で出した総合得点の自己最高は205・50点だ。転倒しても、あと約1点と肉薄したことを聞き「そうですか!

 今のこの演技でこれだけもらえるのは満足。これを最低レベルに、まだまだ上を目指せる」。うれしい驚きに続けた言葉にも強さがあった。

 ◆浅田真央(あさだ・まお)1990年(平2)9月25日、名古屋市生まれ。15歳の05年、GPファイナル制覇。初出場10年バンクーバー五輪は銀メダル。合計3度の3回転半を成功させギネス認定。世界選手権は08年、10年と日本人初の2度の優勝。162センチ、49キロ。

 ◆グランプリ(GP)シリーズ

 1995~96年に始まったアマチュア選手による賞金大会シリーズ。現在はスケートアメリカ、スケートカナダ、中国杯、NHK杯、フランス杯、ロシア杯の全6戦で構成し、2戦合計ポイント上位6人、6組がGPファイナル(12月・福岡)に進出する。日本選手で男子は01年のNHK杯で本田武史、女子は02年のボフロスト杯(ドイツ)で恩田美栄がGP初制覇。03年からはボフロスト杯に代わり、中国杯が入った。