体操女子で、ロンドン五輪代表の田中理恵(26=日体大教)が、来年のソチ冬季五輪で本格的にキャスターでデビューする計画があることが19日、分かった。この日、都内で会見を開き、20年にわたる現役選手からの引退を発表。今後は日体大に残り、スポーツ教育学部の教員として、後進の指導に当たる。それとともに、体操やスポーツを通じて、魅力を伝えるキャスター業にも興味を示した。

 ヒロインの美しい演技は散り際も華麗だった。黒のミニスカートに、黒白のボーダージャケット。大人の女性のシックないでたちは、新たな旅立ちにふさわしい。「20年ロンドン五輪で選手として達成感があった。皆さんにやれると言われるが、(その中で)復帰できないのは少し悔いが残る」。少し声が詰まった。

 両親に、前もって引退の報告をした。「ありがとうと言って電話をした…」。続く言葉が出ない。目にはみるみるうちに涙がたまった。「お父さんとお母さんがいなかったら、田中3きょうだいの活躍もなかった。感謝の気持ちでいっぱい」。涙はあふれなかった。華麗な内に秘めた田中のシンの強さでもあった。

 高校総体でも03年14位が最高成績。やる気が出ない和歌山北高時代の3年間だった。しかし、日体大進学後に力をつけ、大学院進学の10年世界選手権で初代表に選ばれると、あっという間にスターダムにのし上がった。人に見られる、人に伝える喜びを知った。「成績より感動を伝えたいと思ってやってきた」。

 それは、引退後も変わらない。「話があれば、いろいろなことに挑戦したい」。決定はしていないが、すでにソチ五輪でのキャスターのオファーがあり考慮中だという。今秋の世界体操選手権では、初めて中継局のナビゲーターを務めた。事前にアナウンススクールに通って、「めっちゃ」や「超」を使わない敬語でのインタビューも学んだ。「楽しかった。やりがいがある」。スポーツキャスターには、新たな魅力を感じている。

 同大の広報によると、「数え切れないほどのオファーがある」。体操で鍛えたスレンダーな肉体と美しい容姿で写真集出版の話も途切れない。しかし、「スポーツに関係ないものは遠慮してもらう」(同大・近藤監督)。以前は、同大体操競技部に所属した俳優の千葉真一にも勧誘されたが「体操の田中理恵。女優はない」ときっぱりだ。

 体操競技部のアシスタントコーチとして、すでに後輩の床運動の振り付けを行っている。20年東京五輪を導いた手腕で、同五輪で第2の田中理恵を育て、自らがかなわなかったメダルも目指したい。現在の肩書は助教だが、関係者によるとゆくゆくは准教授の道もあるという。引退後も、その人生はあくまでも華麗だ。【吉松忠弘】

 ◆田中理恵(たなか・りえ)1987年(昭62)6月11日、和歌山市生まれ。紀伊小1年で体操を始め、和歌山北高3年で近畿大会個人総合優勝。日体大に進み、09年全日本選手権で個人2位。10年に日体大大学院へ進学。全日本、NHK杯ともに個人4位で、同年の世界選手権で団体5位入賞に貢献。10、11年世界選手権、12年ロンドン五輪は兄和仁、弟佑典と3きょうだいで出場。156センチ、46キロ。