<レスリング:世界選手権>◇11日◇タシケント◇女子58キロ級

 63キロ級で五輪3連覇の伊調馨(30=ALSOK)が、新階級で臨んだ58キロ級の決勝でワレリア・コブロワ(ロシア)にテクニカルフォール勝ちし、9度目の優勝を果たした。首のヘルニアを抱えて調整不足も懸念されたが、地力の差を見せつけた。

 5キロも軽い階級になっても、伊調は伊調だった。あまり見せない両脚タックルも使いながら、4試合全て無失点の圧勝。決勝では吉田を破ったことがある難敵コブロワを寄せ付けず、第1ピリオド終盤には、柔道の小外刈りのように右脚で相手の左脚を払ってバックに回る高度な技術も披露。理想とする「練習している技を多く出す面白いレスリング」は健在だった。

 首のヘルニアで6月から約2カ月間は練習ができず。さらに新階級で初の国際大会となり、「いろいろ挙げると不安要素はたくさん」と明かしていた。ロンドン五輪で現地到着後に左脚靱帯(じんたい)を切った時と比べても、「あの時よりも不安」と競技人生で最も懸案材料があった。ただ、練習量が制限された分、力の出しどころなどを見極め、効果的に得点につなげる試合運びを磨いてきた。

 先月には14~18歳を対象に中国で開かれたユース五輪に「ロールモデル(模範選手)」として参加。日本選手約30人の前で話す機会があった。「私も10代のアジア大会で銀メダルを取って、自分の力と成績のギャップに苦しんだことがあった」。そんな初心を思い出したことも、いいきっかけになった。

 不戦敗を除いて約11年半続く連勝を172に。それでも「これが始まり。新しい姿を見せたい」と探求心は変わらない。2年後、五輪4連覇へと突き進む。

 ◆伊調馨(いちょう・かおり)1984年(昭59)6月13日、青森県八戸市生まれ。3歳の時に姉の影響でレスリングを始める。中京女大付高-中京女大(現至学館大)-ALSOK所属。初出場した02年世界選手権で優勝、63キロ級では無敗。04年アテネ、08年北京五輪で姉千春(ともに銀メダル)と連続姉妹メダルを獲得。北京五輪後に一時休養したが、10年に復帰。166センチ。

 ◆伊調の連勝記録

 世界選手権は3回の欠場があるため五輪を含めた世界一は12回目と吉田よりも少ない。もっとも、出場した大会はすべて優勝。03年のクリッパン国際でマクマン(米国)に敗れて以来、黒星は07年アジア選手権の不戦敗だけで、試合をすれば11年半にわたって全勝。不戦敗前の81連勝に今回までの91連勝を加えれば、172試合負けなしとなる。