<テニス:楽天ジャパン・オープン>◇9月30日◇有明コロシアム◇シングルス1回戦

 日本男子テニスのドラゴンが大金星だ!

 大会推薦出場で世界103位の伊藤竜馬(26=北日本物産)が、同4位で全豪覇者のスタン・ワウリンカ(29=スイス)に7-5、6-2の79分でストレート勝ちする大番狂わせを起こした。伊藤がトップ10選手に勝ったのは初めて。73年に始まったこの大会で、第1シードの選手に日本男子が勝ったのも初めての快挙となった。2回戦では、同62位のベッカー(33)と対戦する。

 最後は、最も苦手なサーブアンドボレーに挑戦した。ネットの向こうは今年の全豪覇者だ。しかし、果敢に挑んだ伊藤のバックボレーが、鮮やかに決まった。「最後まで攻めていけた。強い選手に、この日本で勝てて本当にうれしい」。トップ10選手と対戦するのも、わずか3度目。大金星に、思わず右手でガッツポーズだ。

 粘りと積極性、攻守の歯車がかみ合い、何度かのピンチも踏ん張った。12年全豪で「ドラゴン・ショット」と呼ばれた得意のフォアの逆クロスがさく裂。全米準々決勝でも、錦織が手を焼いたワウリンカの片手のバックを破壊した。

 第1セット4-2リードから、3ゲームを連取され逆転された。しかし、続く3ゲームを奪い返し「最後もしっかりキープできた。落ち着いてできた」。第2セットも虎視眈々(たんたん)と逆転を狙うワウリンカに2ゲームしか与えず。平日にもかかわらず、収容1万人の有明コロシアムを7割も埋めた観客から大声援を受けた。

 12年12月から、拠点を味の素ナショナルトレセンから、ドイツのハレに移した。「上に行くには、外国のコーチや環境が必要だと思った」。知人のつてを頼り、現在は元世界6位のシモン、元13位のニエミネンが所属する「ブレークポイント・ベース」というアカデミーで練習する。

 年間で7~10週間を、ハレで練習し「シモンやニエミネンに練習試合で勝ったりもした」ことが自信になった。その練習で、「相手も同じ人間で変わらないという実感が持てた」ことが、大金星につながった。

 竜馬と書いて「たつま」と読む。坂本龍馬が好きな父孝治さんが「常に前向きで生きてほしい」との思いを込めて、名前を付けた。加えて、たつ年生まれで、日本人にしてはパワフルなショットから、全豪でついた愛称が「ドラゴン」だ。

 錦織とも仲が良く「圭」、「たっちゃん」と呼び合う仲。2歳違いの先輩で、ジュニア時代は「あー、強いやつがいるな」ぐらい。錦織も眼中になかった。今は「いいライバル。刺激しあって頑張りたい」。この日は、まさに昇り竜が、錦織から主役を奪った。【吉松忠弘】<伊藤竜馬(いとう・たつま)アラカルト>

 ◆生まれ

 1988年(昭63)5月18日、三重県いなべ市。

 ◆家族

 両親と姉、妹。姉加奈子、妹亜理沙ともに元選手。

 ◆テニス歴

 9歳でテニスを始め、06年全日本ジュニア18歳以下、高校総体単準優勝。06年12月にプロに転向した。

 ◆全日本

 06年初出場で、08、11、12年と準優勝。半分諦めていた昨年、決勝で西岡を破って悲願の初優勝を遂げた。

 ◆憧れ

 元世界1位で、4大大会8度の優勝を誇るアガシ。同じ強烈なフォアを持ち、ストロークを主体にするタイプ。

 ◆ロンドン五輪

 最初の出場資格発表の時点で名前がなく、その後、出場権を得た。五輪に出るのが夢だったので、肝を冷やした。

 ◆最長試合

 11年国別対抗戦デ杯フィリピン戦で、マミート相手に、5時間25分を戦い抜き、勝利を得た。同試合時間は、日本デ杯史上最長試合となった。

 ◆利き手、サイズ

 右利き。180センチ、67キロ。