<柔道:グランドスラム東京2014>◇第1日◇5日◇東京体育館◇男子66キロ級

 超新星が、絶対王者を倒して頂点に立った。男子66キロ級の阿部一二三(17=兵庫・神港学園高)が、準決勝で世界選手権3連覇中の海老沼匡(24)と対戦。有効でリードされながらも大内刈りで技ありを奪って逆転勝ちした。阿部は決勝でもゴラン・ポラック(23=イスラエル)を破り、日本男子として過去最年少のグランドスラム大会優勝。来年の世界選手権、2年後のリオデジャネイロ五輪に向けて、大きく前進した。

 残り46秒、海老沼にリードを許した阿部が力を振り絞った。接近戦に耐える世界王者の左足に、右足をかけて強引に後方に倒した。映像を確認したジュリーが技ありを認めて劇的逆転。「同じ舞台に立てるだけで光栄」と話していた絶対王者を、力でねじ伏せた。

 「強かったし、技もすごかった」という海老沼に勝って、勢いは加速。決勝でも相手を圧倒して頂点に立った。「失うものがないから、思い切っていけた。緊張もなかった」と、平然と言ってのけた。シニア国際大会デビュー戦の金メダルを「今までのメダルで一番重みがある」と話した。

 決勝前、全日本ジュニア元ヘッドコーチの賀持道明氏から「3度目だぞ。必ず勝てよ」と激励された。10月、世界ジュニア決勝でリードしながら逆転負け。昨年の世界カデ(17歳以下)に続いて銀メダルに終わった。両大会の監督だった同氏は、畳の脇で号泣する阿部にあえて厳しく言った。「これが五輪だったら、どうするんだ。チャンスは多くないんだからな」と。

 中学時代から「将来の金メダル候補」と期待され、圧倒的な強さを誇ってきた阿部にとって、課題は精神面だった。強すぎるがゆえの慢心。賀持監督に、そこを突かれた。「自分を分かってくれる。厳しく言ってもらって、気持ちが変わった」と阿部。今年、唯一の黒星でひと回り成長した。

 試合後、阿部は日本代表の井上監督に祝福された。と同時に「満足するな。明日からはいつも通りにしろと言われました」。強すぎる17歳に井上監督は「これがゴールじゃない。東京、いやリオも可能性があるんですから」と話した。昨年9月に20年東京五輪が決定した時「東京五輪で金メダル」を目標に掲げた阿部は精神的に成長し、世界王者も倒して「リオも視野に入った」と力強く言った。【荻島弘一】

 ◆阿部一二三(あべ・ひふみ)1997年(平9)8月9日、兵庫県生まれ。6歳から柔道を始める。神戸生田中では11年(55キロ級)12年(60キロ級)と全国中学大会連覇。神港学園高でも高校総体、全日本カデ、全日本ジュニアなど国内のタイトルを総なめにしている。得意技は大腰、背負い投げ。右組み。憧れの選手は野村忠宏。家族は両親と兄と妹。168センチ。