<バレーボール:ロンドン五輪世界最終予選兼アジア予選女子大会>◇2日目◇20日◇東京体育館

 28歳の遅咲きの新星が、代表デビューを果たした。世界ランク3位の日本は同28位の台湾に25-16、25-13、25-14のストレート勝ちで2連勝。今大会、初代表入りした平井香菜子(28=久光製薬)は、昨年7月に父智さん(享年56)を亡くした悲しみを乗り越え、百発百中の決定率でチームに貢献した。日本はロシアと勝ち点6で並んだが、セット率で首位に立った。明日22日に同12位のタイと対戦する。

 平井の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。父にささげた代表デビュー。スパイクの打数こそ3本と少なかったが、その3本とも見事に決めた。「お父さんが、一番、喜んでくれていると思う」。観客席で見守った母裕美子さん(58)が手にした父の写真の前で、堂々の代表デビューとなった。

 第1セット、台湾の粘りに、思わぬ苦戦のスタートとなった。台湾に先に8点目を奪われ、最初のテクニカルタイムアウトを取った。エンジンがかかった後半、真鍋監督の「行くぞ」という言葉で、平井の出番が回ってきた。投入後、最初のプレーでいきなりスパイクを決めて20点目をマーク。「緊張については、あまり考えないようにした」と言うが、第1セット終了後は、過呼吸になりそうなほど気が張っていた。それでも第2セット以降は出ずっぱりとなった。

 3月に日本代表候補に初招集された。「まさか、自分が」と驚きを隠せなかった。真鍋監督が「特徴がないのが特徴」という、どのプレーもできるセンターとして、抜てきされた。候補20人から今大会の代表12人にも残った。「やってやろうと思った」。初めて参加した約2カ月の代表合宿で、精神的にもたくましくなった。

 高校、大学とプレーしていた母裕美子さんの影響で、三重・朝陽中でバレーを始めた。筑波大進学後は2度のユニバーシアード代表に選ばれたが、今年まで代表とは縁がなかった。「派手なプレーはできない。地味にいやなところをついていく」。それでも真鍋監督は「今日は合格点」と太鼓判を押した。

 3月に全日本に招集された時、父の墓前に報告した。母からは毎日のように「がんばって」とメールが来る。「やれるだけのことはやろう」。28歳の遅咲きバレー人生だが、その先にはロンドンへのシンデレラロードが敷かれている。【吉松忠弘】

 ◆平井香菜子(ひらい・かなこ)1984年(昭59)4月15日、三重県津市生まれ。朝陽中1年でバレーを始め、津商ではビーチバレー浅尾美和の1学年上だった。筑波大で05年と07年のユニバーシアード出場。07年に久光製薬入り。愛称は三重→鈴鹿サーキット→ジャン・アレジから「アン」。スパイクの最高到達点は308センチ。183センチ、69キロ。血液型O。