日本代表選手の「こだわり」に迫るシリーズ第2回は、プロップ稲垣啓太(28=パナソニック)。日本屈指の運動量を誇り、FW最前線で献身的にチームを支える。寡黙な仕事人が追求する運動量の原点には、高校の恩師の教えがあった。

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稲垣は日本代表の左プロップで、不動の背番号「1」を背負う。186センチ、116キロ。プロップでは驚異の体脂肪10%を誇る。数手先の動きを読み、ボールへ向かう。トライなど華やかなプレーとは無縁だが、タックルしてはすぐに起き上がる。これを繰り返す。その強みが世界基準の「運動量」だ。

走力テストでは体重が30キロ以上軽いWTB選手並みの数値を記録する。先月の宮崎合宿でも、FW陣で稲垣のみがWTB選手と同じ距離を力走した。「運動量の向上にゴールはない。上の世界と戦うために、もう1段階超えたい」と進化を追求している。

原点は、新潟工高時代にある。体格は中2から変わらず体重は120キロ超、スクワットの重さは300キロ。「県内に敵なし」で、その体格と身体能力の高さからNO8などでも活躍できる逸材であったが、恩師の樋口猛監督(46)から口酸っぱく、こう言われた。「目先ではなく先を見据えろ。将来、世界で通用するプロップになるために、派手なプレーは捨てて脇役になれ」。高2で左膝靱帯(じんたい)損傷したことを機に、試合で使う運動量について考え「動けるプロップ」を志した。

「プロップだから『これは出来ない』では、世界で通用しない。スクラムなどのセットプレーは当然で、チームを支えるためにプラスαの技術も極めたい」

心肺機能を高めながらの走力アップや、パスやタックルなどの技術も磨いた。14年11月に日本代表に初選出。15年に世界最高峰リーグのスーパーラグビーのレベルズに加入した。トレーニングと並行して栄養学も勉強した。1日6食。一般成人男性の3倍の7000キロカロリーを摂取し、肉体改造にも励んだ。

最も大切にしていることは、防御時の「ボールを持っていない時の動き」。常に脇役に徹し、どんな状況でも笑顔を見せない。テストマッチで勝利しても、左腕上腕二頭筋が断裂しても武骨な表情を貫く。人に弱みを見せることを嫌い、苦しい状況でも両手を腰や膝に当てないのが鉄則。6月のイタリア代表戦では、相手から「1番」ではなく、その風貌とストイックな姿勢から「ジャパニーズマフィア」と呼ばれた。

W杯まで10カ月-。8強入りを狙う日本は体格で劣る分、運動量が勝負のカギとなる。「個々の底上げがチーム力を上げる。まだまだ伸びる。個人、チームともに心技体のピークをもっていく」。29歳で迎える大一番に備え、“寡黙な名脇役”は走り続ける。【峯岸佑樹】

日本代表プロップ稲垣啓太
日本代表プロップ稲垣啓太