今季加入した神戸製鋼の元ニュージーランド(NZ)代表SOダン・カーター(36)が、冷静な状況判断で頂点に押し上げた。15年ワールドカップ(W杯)イングランド大会で史上初の2連覇に貢献した司令塔は、PG1本を含む6本のキック成功で13得点。後半27分の交代まで正確な技術でけん引し「特別な試合になった。自分ではなく(神戸製鋼で)長くプレーしてきた人のためにプレーした」と笑顔を見せた。

今年7月の加入後、練習では最後までキックを繰り返し、新人にも当たり前のように助言。代表112キャップを持つ世界的スターだが「みんながハードワークをする。チームのためだけでなく、会社のためにもやる。仕事への取り組み方は、僕が得た一番大きなもの」と90年間続く神戸製鋼の歴史に尊敬の念を持つ。

首脳陣はNZ代表をアシスタントコーチとしてW杯2連覇に導いたウェイン・スミス氏(61)が総監督として今季から指揮。来日後は「7連覇の人たちに話を聞いて、神戸の歴史を知りたい」と自ら発案し、黄金時代を選手として支えた元ヘッドコーチの萩本光威氏(59)を訪ねて、酒を飲みながら歩みを学んだ。阪神・淡路大震災の「復興のシンボル」とされた高炉の解体現場に出向いて「レガシー(遺産)活動」も提案。ボールを保持して攻撃を仕掛けるNZスタイルを落とし込む一方、低迷期に薄れた伝統の重みを共有した。

その思想を基盤に、世界最高峰の技術を披露し続けたカーターは、04年からの付き合いになるスミス総監督を「世界で一番いいコーチだと思う」とたたえた。指揮官が選手に繰り返して訴えたのは「正しいことでなくても、思ったことを伝えてくれ。話すことが学びにつながる」。実績におごらず、和の心を学んだ王国の男たちが、歴史の1ページをめくった。

◆ダン・カーター 1982年3月5日、ニュージーランド生まれ。高校卒業後、03年スーパーラグビーのクルセーダーズでデビュー。今年7月、フランスの強豪ラシン92から神戸製鋼入り。代表1598得点は世界最多記録でキャップ数は112。ワールドラグビーの年間最優秀選手に3度選出。好物はすし。178センチ、96キロ。