【ローマ7月31日=高田文太】北島康介の世界記録が消えた。水泳世界選手権の競泳で、7月27日の男子100メートル平泳ぎに続き、30日の同200メートルでもクリスチャン・スプレンガー(オーストラリア)に塗り替えられた。昨年6月に北島が出した世界記録2分7秒51は、当時「驚異的」といわれたが、1年余りで消滅。男子100メートル自由形のセザール・シエロフィリョ(ブラジル)がマークした46秒91など、30日終了時点で計29個の世界新が誕生。今大会は「水着の世界選手権」とまで呼ばれ、ジャケド社などの新型高速水着の影響で、73年大会の16個を大幅に上回った。

 わずか1年で世界は劇的に変わった。男子200メートル平泳ぎ準決勝。1組目のスプレンガーは、196センチ、91キロの体格を生かして、水を切り裂いた。2分7秒31。北島の記録を0秒20更新する世界新だ。2組目でも、シャントー(米国)が2分7秒42と、北島の記録を超えた。ちょうど1年前は2分8秒台でさえ、北島とハンセン(米国)しか出せなかったのが、うそのような記録ラッシュだ。

 スプレンガーは北京五輪でこの種目26位で、大会前の自己ベストは2分11秒02だった。大舞台での好成績もなければ、今年で24歳と新鋭とは言い難く、北島より3歳だけ年下だ。それが全身タイプのイタリア・ジャケド社製水着を身につけた途端に激変。「こんなに速く泳いだなんて信じられない」と、誰よりも本人が驚いていた。

 昨年6月に北島が史上初の2分7秒台で泳いだ時、同時期に欧州遠征中の選手が「大会中に突然『キタジマが2分7秒台を出した』と、アナウンスが流れた。場内騒然だったし『クレイジーだ』とみんな言っていた」と話していた。それほど当時の北島のタイムは衝撃的で、北京五輪では強過ぎて競り合う相手すらなく完勝した。

 今大会は全面ポリウレタンのジャケド社、大部分がラバーで覆われたイタリア・アリーナ社の水着が猛威を振るっている。ポリウレタンやラバーは水も空気も通さず、浮力が増すとされる。北京五輪で世界中の選手が着ていた英スピード社のレーザー・レーサー(LZR)は、ポリウレタンの割合がジャケド社の約半分で、もはや古い。スピード社と契約する同五輪8冠の怪物フェルプス(米国)でさえ、LZRを着た200メートル自由形でジャケド社水着を着たドイツ選手に敗れた。担当コーチは水着の規定が公平になるまで、国際大会への出場を見合わせる考えまで示した。

 男子100メートル自由形ではアリーナ社製水着を着たシエロフィリョが、公認記録としては史上初の46秒台を出した。30日までに26種目が実施され、29個と史上最多の世界新が出ている「水着の世界選手権」。北島を指導した日本代表の平井ヘッドコーチは「後半まで体力が保存できるのでパワー型の選手に有効」と新型高速水着を分析。またスプレンガーの泳ぎを見て「康介が復帰すれば勝てる」と断言。水着による差がなくなくなった時のために、真の実力を備えていることの重要性を説いていた。