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為末大氏×高桑早生氏対談 後編-1

 「チャレスポ!TOKYO」に参加する01、05年世界陸上男子400メートル障害銅メダリストの為末大氏(36)と、義足のパラリンピアン高桑早生氏(22=慶大)が対談を行った。スポーツをはじめたきっかけや障害者スポーツの現状などを語り、イベント参加を呼びかけた。「チャレスポ! TOKYO」は、障害がある人もない人も障害者スポーツを気軽に楽しむことができるイベントで、11月30日(日)に東京・北区の東京都障害者総合スポーツセンターで開催された。
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――スポーツを続けるモチベーション

為末
 理由というかモチベーションは変わるんですよね。ちょうど引退して、一番興味がある領域だった心理学の勉強を今しているんですけど、モチベーションって「やる気」ってくくっているんですけど、案外、最近なんですよね、モチベーションって人類種の中では。キャリアとか夢とかモチベーションって言う言葉は12世紀ぐらいなんですよね。それより前は、自分が将来なるものも決まっているし、目の前のことをやっていくというか。だから当然努力とかモチベーションっていう感覚もないわけですし、今日やるべきことをやっていくという。産業革命でそういうものから開放されたということが、人間がモチベーションっていうことを考え始めて、夢が生まれてきて、キャリアというのが出てきた。それとスポーツがフォーカスされていることは、すごく近いんじゃないかと思います。スポーツに感動するというのは、つまり何かに頑張って一生懸命取り組もうと思っている人間を見て感動する、共感できるということという、うんちくはまずおいといて(笑い)。一番大事なことは、「人をモチベートしたい」っていうことが自分のモチベーションだったりした気がしますね。やっぱりアスリートの役割ってそういうところにあって、頑張っている人を見て、みんなが頑張るっていうところもある気がするんですよね。世の中の〝やる気製造器〟みたいなところがちょっとあったりして(笑い)。そういう役割は最後の方は認識していましたね。だから、一生懸命やらないといけないと。結果を出すことも大事だけど、それよりは一生懸命やるっていうことが社会に認識されるということが僕の仕事の結構大きな役割なんだと。そのことで案外頑張れたなということもありましたしね。パラリンピアンはかなりその役割は大きいよね。
高桑
 私は〝やる気製造器〟かはわからないですけど(笑い)、私はまだ為末さんほど競技歴もないですし、そんなに深くないんですけど、単純には走っているのが楽しいんですよね。それで記録も伸びてきたりとか、走るってすごく単純な動作なのに、何でこんなに頭使わなきゃいけないんだろうっていう、そこが結構最近面白くなってきて。なおかつ、私自身がパラリンピックの世界が大好きなんですよね。障害者陸上っていうものがすごく好きで。障害者がやっているとか、壁を乗り越えたとか、そういうのを全部とっぱらって、単純にスポーツとしてすごく面白いと私は思っているんですよ。そういう感動、私が味わっていた感動を、他の人にも知ってほしいなと思っていて、自分が走っていて、そういう風に思ってくれる人が一人でも多くいれば、自分は幸せだし、やってて意味があったなと思いますね。

――日本と他の国でスポーツが置かれている環境の違い

為末
 システムの方から整理していくと、やっぱり日本のスポーツは教育なんですよね。文部科学省の下についていますし。30歳になってから、ちょっと会社終わりにスポーツやろうかっていう時のやれる環境が、そもそも帰る時間が10時ぐらいっていう問題もありますけど、ちょっとやっぱり弱い。それが海外に行くと、どの年齢の方もスポーツを楽しめるというのがひとつあるかなと思います。もうひとつは、高桑さんが言ったのはまさにそうで、「楽しむスポーツ」という域がずいぶん少なくて、「学ぶスポーツ」とか「人格形成のためのスポーツ」というのはたくさんあるんですけど、ただ楽しいからやろうというって言うと、ちょっと言いはばかられるような。スポーツは遊びですっていうことを言いにくい空気があるじゃないですか。本当にそうなんですよね。そういう空気を僕は感じますね。日本が2020年に向けて、世界から人がいっぱい来ると、あれ? スポーツってもしかしてこうあってもいいんじゃないのというのも大事ですけど、もうひとつのスポーツっていうのが、文化としてつくられていくんじゃないかなと思いますね。
高桑
 パラリンピックに出た時、ロンドンの街はバリアフリー化がちっとも進んでいなかったですね。むしろ障害者にやさしくない街だと思いますね。石畳だったりとか。
為末
 ロンドンはそうだよね。
高桑
 ちょっと建物に入るにも、4段ぐらい段があったり。でもその段に、必ず車いすマークのついたインターホンみたいなのがついているんですよ。そういう現場は実際に見ていないですけど、「いつでも助けますよ」っていう雰囲気はあるのかなって、大会の中にいて思いましたね。本当にそうかわからないですけど。ハードの面は整っていないけど、ソフトの面は整っているのかなと思いますね。
  • 【プロフィル】
◆為末大(ためすえ・だい)
 1978年(昭53)5月3日、広島市生まれ。広島皆実高―法大。男子400メートル障害で世界選手権2度(01年、05年)銅メダル。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。現在は社会イベントを主宰する傍ら講演活動、執筆業、テレビのコメンテーターなどマルチな才能を発揮。爲末大学の公式サイトは、http://tamesue.jp/
◆高桑早生(たかくわ・さき)
 1992年(平4)5月26日、埼玉県・深谷市生まれ。小学6年時に骨肉腫を発症し、中学1年時に左足膝下を切断。中学ではソフトテニス部に所属。東京成徳大深谷高で陸上部に入り、頭角を現す。12年ロンドンパラリンピック女子100メートル、200メートルで7位。14年仁川アジアパラリンピック女子100メートル銅メダル。慶大体育会競走部所属。


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