日本相撲協会の北の湖理事長(55=元横綱)が、弟子にだまされて辞任した。8日、東京・両国国技館で臨時理事会を開催。同理事長は理事に降格、平幕露鵬(28=大嶽)と十両白露山(26=北の湖)兄弟は解雇処分となったが、同理事会では2人が「ロスでは吸った」と大麻吸引歴を告白していたことが再発防止検討委員会から報告された。弟子白露山や露鵬の無実の主張を信じていた北の湖親方は、ショックを受けてその場で辞意を表明した。後任の理事長には武蔵川親方(60=元横綱三重ノ海)が就任。露鵬の師匠大嶽親方(元関脇貴闘力)は委員から年寄へ2階級降格となった。

 信じていたのに、だまされた。「露鵬と白露山は6月のロサンゼルス巡業の際、大麻を吸っていたことを認めています」。理事会出席者によると、再発防止検討委員会の報告に、北の湖前理事長は目を見開いて驚いたという。「そうなんですか。20回も30回も、『正直に言え。本当に吸っていないのか』と問いただして、そのたびに弟子の白露山は『絶対に吸っていません』と言っていたですが…」。同委員会の「隠し玉」が、辞任の決定打になった。

 会見では「(辞任は)前日7日から決めていた」と話した。同日に同委員会の友綱理事(元関脇魁輝)からの電話で、精密検査の結果も両関取の尿検体が大麻使用陽性だったことを知った。内容は「大麻(自分で吸引する)主流煙の基準値で露鵬は5倍、白露山は10倍」。その時点で「本人は否定しても、この結果を真摯(しんし)に受け止めなければならないから」と辞意の理由を語った。

 しかしこの日の理事会では、前理事長から「弟子の白露山の新たな検査結果が出るまで、理事長職を休養したい」と申し出ていたという。複数の理事がすぐさま反論。「病気でもないのに、それは通らない」「黒という事実と数値がすべてじゃないですか」。

 退陣要求があれば受け入れる覚悟はあったが、冒頭に白露山による吸引告白の事実を突き付けられたショックも加わり「分かった。私は退きます」と降参。その上で自ら理事退任も口にしたが、これは温情で引き留められ、後任の武蔵川新理事長から大阪担当部長に指名された。だが、前理事長にとっては協会トップの座を追われたことよりも、信じて、かばってきた弟子にだまされ続けていたことがショックだった。

 再発防止検討委員会メンバーによると、露鵬、白露山は2日の抜き打ち簡易尿検査の際、陽性反応を示したことで受けた事情聴取に、それぞれが「ロスでは吸った。黒人の歌手からもらった。でも、師匠には絶対に言わないで。日本では吸っていないから」と告白していたという。一方で2人は、検査場の両国国技館内相撲教習所を出ると「絶対に吸っていない」と強く訴え始めた。露鵬は「大麻は見たことも触ったこともない」とまで主張していた。

 しかし、科学の力で吸引は確定した。本人たちの承諾を得て行った精密検査でも結果は黒だった。処分を決めるこの日、理事会前に同委員会に呼び出された2人は、吸引歴を再度問われると「忘れた。日本語が80%分からない。頭が真っ白」などととぼけた。これに心証を悪くした同委員会側は「反省がない」と判断。理事会では「1年の出場停止」という案も出たが、大半が解雇にすべきと主張し、前理事長も反論しなかったという。

 理事会後、史上初めて任期途中で理事長職を引責辞任した北の湖理事は、約200人の報道陣を前に厳しい表情のまま頭を下げた。「白露山を子供のように思ってきました。しかし、こういうことになり、師匠として深く反省しています。責任を取るのは当然です」。会場を出ると、フラッシュを浴びながらポツリと言った。「あれだけ、普段から『ウソをついちゃいけない』と言ってきたのにね」。相次ぐ不祥事でも理事長に居座った55歳は、苦笑いするしかなかった。【柳田通斉】