<大相撲九州場所>◇千秋楽◇23日◇福岡国際センター
耐えた。踏ん張った。首をきめられ、安馬の意識はもうろうとしていた。それでも「前に出なきゃ」。最後は投げられ、西の花道はVロードにならなかった。大関昇進に花を添えられなかった。それでも勝者以上の拍手が送られた。「何も聞こえなかった。余裕がありませんでした」。重圧とも闘った15日間。悔しさを残しながら完全燃焼した。
本割では把瑠都に快勝した。立ち合いで巨体を突き起こし、一気に攻め切る会心の相撲。土俵下で白鵬の豪快な投げを見届け、初の優勝決定戦が決まった。速足で戻ってきた支度部屋では、落ち着かなかった。「初めてなんで、緊張感、プレッシャーを味わった」。白鵬に投げられた後は、兄ラグバドルジさん(26)に「いい相撲だった」と抱かれた。瞳は潤んでいた。
天国の父に、力士として、男として成長した姿を届けた。06年12月28日、父ダワーニャムさんが交通事故で急死した。食事はのどを通らず、直後の初場所中は体重が3キロ落ちた。涙が止まらず、両目は腫れた。モンゴルと同じ星空を眺め、父の言葉をかみしめた。「目の前に100ドルあったら、100人の友をつくるように使いなさい」。警察幹部だった父は、決してわいろをもらわなかった。「裕福さはいらない。人こそ財産だ」。大関とりの重圧に負け、3日目から連敗。そんな時、師匠だけでなくほかの一門の親方、関取、後援者…多くの人に励まされた。「本当にいろんな人に支えられているのが分かった。気持ち、感じました」ともらした。
モンゴル相撲で「関脇」だった父を、番付では超える。それでも満足するわけにはいかない。伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は「まだ上がある。もっと厳しくするし、明日からしこ踏む気持ちじゃないと」と話した。名古屋場所から積み上げてきた白星は35個。半年がかりの戦いを成就させた。「今はおいしい酒を飲みたいね」。浴びるほど飲んだ後は、綱への戦いが始まる。【近間康隆】

