<大相撲九州場所>◇14日目◇28日◇福岡国際センター

 横綱白鵬(24=宮城野)が「ダブル記念星」で、2場所ぶり12度目の優勝を決めた。大関琴光喜(33)との熱戦を上手投げで制し、無傷の14連勝。1差の力士がいないため、自身5度目の千秋楽前Vとなった。09年85勝目で、05年朝青龍(84勝)の年間最多勝記録を抜いた。07年5月の横綱昇進から224戦目での「横綱200勝目」は、元横綱大鵬と並んで史上最速となった。尊敬する双葉山に優勝回数で並び、千秋楽は年間86勝目と4度目の全勝優勝を狙う。

 肩で息をし、白鵬は37本の懸賞を両手で拝むようにつかんだ。年間最多勝新記録と歴代最速の横綱200勝目。記念星に合わせるように、2場所ぶりの賜杯をつかんだ。「今年に入ってから双葉関に並ぶというのがありましたからね。九州で決めたことに感じるものがある」。元横綱の双葉山、武蔵丸と並ぶ歴代7位の12度目V。九州は尊敬する双葉山が生まれ、道場を開いた地だった。

 余裕があった。差し手争いの中で得意の左上手をつかむと、館内からは「あ~」とため息が漏れた。ところが、うまさに定評ある琴光喜は簡単に勝たせてくれない。出し投げで崩そうとすれば体を寄せてくる。投げには投げで対抗してきた。「慌てないようにしたのが良かった。落ち着いてね」。1分37秒4の熱戦。最後は右足を俵に掛け、十八番の左上手投げで決めた。

 名古屋場所後の7月、モンゴルへ帰国した。14勝1敗で11度目の優勝を果たした凱旋(がいせん)気分は、モンゴル相撲大横綱のムンフバトさんに吹き飛ばされた。「琴光喜は一番上手な人。お前はうまくないから、余裕がなかったんだ」。名古屋での1敗は琴光喜だった。テレビ観戦する父は、身ぶり手ぶりでモンゴル相撲の技を教えていたという。同行した関係者は「熱心なお父さまの話を、横綱はしっかりと聞いてましたね」と明かした。

 前人未到の年間85勝目。モチベーションは記録にない「3敗」だった。初、夏そして秋場所と、優勝決定戦で史上初の3連敗。「心が未熟だった」という白鵬に、横浜・興禅寺の市川智彬住職(67)が忠告した。「呼吸を意識しなさい。(へその下にある)丹田に集中することで、腰が伸びて落ち着きます」。まわしの下に力を込め、集中力を高めた。この日も仕切るたびに、大きく息を吐いた。

 感傷には浸らなかった。髪を結う間も、白鵬は瞳を閉じて淡々と話した。「まだ、終わってないんでね。まだ、明日がありますから」。朝青龍には今年、本割で負けていない。自身4度目の全勝Vと年間最多記録更新の86勝目をかける千秋楽。圧倒的な強さを見せつけたとき、世代交代が完遂する。【近間康隆】