ついに横綱審議委員会(横審)が動いた。横審の鶴田卓彦委員長(82=元日本経済新聞社相談役)は29日、都内の日本相撲協会を電撃訪問し、横綱朝青龍(29=高砂)の暴行問題について武蔵川理事長(61=元横綱三重ノ海)と話し合った。異例の行動は拡大する一方の騒動に対し、協会の対応の遅さに業を煮やした形。同委員長は協会に厳しい処分を求め、その内容次第では「引退勧告決議」も視野に入れた臨時の横審を開催する意向を明らかにした。

 動かざるを得なかった。鶴田委員長はこの日午後、自ら東京・両国国技館の日本相撲協会に出向いた。

 朝青龍の暴行問題について「重大な問題だと思っている」と言い、「私の責任で行動しなければと思った。(他の委員とは)連絡はとっていない。委員長としての判断」と明言した。場所中の16日未明、東京・六本木で泥酔し、知人男性に暴行したとされる朝青龍の行動は、テレビのニュース番組のトップで扱われるなど社会問題化。それでも事実関係の調査を高砂親方(元大関朝潮)に丸投げする反応の鈍い協会に対し、業を煮やしたのだろう。横審はあくまで協会の諮問機関だが、自ら足を運び、武蔵川理事長に説明を求めた。

 武蔵川理事長と約20分の話し合いを終えると鶴田委員長は、次々と厳しい言葉を口にした。脚本家の内館牧子氏らとは違い、これまで土俵上のガッツポーズ問題などで朝青龍には寛容な立場だったが、「(2場所の出場停止処分となった07年の)サッカー騒動と、人を殴ったのは次元が違う問題。いかなる理由があろうとも暴力はいかん」と、ばっさりと切り捨て、「実態が報道通りとすれば重大な問題。今まで寛大だったが(今回は)そうはいかないだろう」と言い放った。

 さらに、協会が2月上旬の理事会で決めるとみられる処分内容について「暴力を振るってけがをさせたのが事実なら、簡単には済まない」とし、「出場停止で済むかどうか」と踏み込んだ。協会の処分には、出場停止より重い番付降下、解雇、除名があるが、横綱の大関降格はあり得ない。「理事会から(処分の)報告を受けて、臨時で横審を開く」と、処分の内容について横審で審議すると明言。「(横審の)内規では激励、注意、引退勧告ができる」と話すにとどめたが、「理事長には『(横審の見解は)厳しいものになる』と言いました」。協会の処分が甘いと判断すれば、史上初の「引退勧告」決議も辞さないとの姿勢を示した。

 協会の処分の決定や、臨時横審の開催の時期については「理事選後の2月1日か、新理事会がある4日になるのでは。4日までには結論を出さないと。そんなに延ばせないだろう」と、早期決着を望んだ。

 これまでは朝青龍を擁護することもあった鶴田委員長は「朝青龍は素晴らしい力があると思うが、横綱として社会に対する責任がある」と突き放した。朝青龍を臨時横審に呼ぶかと聞かれると「必要ないと思う。『許します』という時に諭すのであれば呼ぶが」。これまで「甘い処分」で逃げ延びてきた横綱は、完全に追い込まれた。【赤坂厚】