<大相撲春場所>◇初日◇14日◇大阪府立体育会館

 静岡県勢として5年ぶりの新入幕を果たした三島市出身の磋牙司(28=入間川)が、記念すべき初日の土俵で初白星を挙げた。玉乃島に土俵際まで押し込まれながらはたき込んだ。物言いがつく一番となったが、辛うじて右つま先が残っていたため、行司の軍配通りに勝った。取組後は反省の言葉ばかり口にしたが、幕内最小兵の奮闘に場内から大きな拍手が送られた。

 身長で21センチ、体重は33キロ上回る玉乃島の懐に幕内最小兵の公称167センチ(健康診断では166センチ)が真っ向飛び込んだ。潜り込み、小刻みに動き回りながらまわしをとらせない、得意の接近戦に持ち込みたかったが、新入幕の初日の土俵では思うようにさせてもらえない。一気に土俵際まで追い込まれた。ただし、玉乃島の腰も泳いでいた。とっさにはたき込んだが、自分も土俵下に飛ばされた。軍配は東の磋牙司に上がったが、物言いも同時だった。

 約1分の協議の末、九重審判長がマイクを持った。何やらメモを確認しているのは新入幕でまだなじみのない「さがつかさ」の読み方を確認しているのか…。「玉乃島の手が先に落ちており、軍配通り磋牙司の勝ちとします」。少しかんではいたけれど、元千代の富士「ウルフ」のよく通る声が場内に響いた。磋牙司が勝った。新入幕初白星は、07年夏場所11日目に潮丸(現東関親方)が挙げて以来の、静岡出身の幕内力士の勝利だった。

 手放しで喜ぶ静岡県民の喝采は、大阪府立体育館の支度部屋にはさすがに届かない。しかも、磋牙司はとっさに引いた相撲内容が気に入らず、表情を崩さなかった。「この相撲だとうれしくない。ラッキーだった。この相撲だとまずいんで…」と反省した。

 この志の高さがあったから、小兵ながら出世できた。「気持ちを入れ直す。勝ってうれしい相撲を取っていきたい。内容です。幕の内で通用する相撲を取りたい」と厳しい言葉ばかりだったが、一方の玉乃島はさらに顔をしかめていた。「とりにくかったです…」。最小兵こそ、荒れる春場所の脅威になる可能性を感じさせた。

 横綱朝青龍引退後最初の場所。数字上では大横綱の身から出たさびとはいえ、験のいい場所だった大阪のファンには少なからず寂しさが漂う。磋牙司は違った意味で、悔いが残る1人だ。高校横綱に輝いた98年総体。直接対決はなかったものの準決勝で敗退したのが朝青龍だった。大学相撲を経て磋牙司が初土俵を踏んだ04年春場所。朝青龍は30連勝で2場所連続全勝優勝を果たす無敵の横綱として君臨していた。以来、6年かけて同じ幕内にたどりついたのに、見えかけた「初顔合わせ」が消えたのは残念だった。

 一方で新しいスター力士を求める角界に、最小兵力士が与えるインパクトは大きい。勝利者インタビューに呼ばれ「声援が違いますね。違和感があります」とぼくとつに答える姿は、古き良き無口で誠実な「お相撲さん」のようで新鮮さも残した。もう県民の期待だけではない。今までにない声援が磋牙司を後押しする。